エンジンの音が消え、エアコンの風音が消えると、車内には居心地の悪い静寂が訪れた。

危険な沈黙

沈黙が訪れるのが良くないことかのように、森宮さんはなんだかんだとしゃべった。

長く続く沈黙が当然ひき起こす一種の圧迫を木村も感じてうろたえたらしく、なんとかして二人（ふたり）の間の気まずさを引き裂くような、心の切（せつ）なさを表わす適当の言葉を案じ求めている

うわずった声は、ただ沈黙の重さから逃げようとしているだけ

決して元気になったわけじゃないんだとわかるような、作った笑顔

笑いのためとも、緊張のためともつかないひきつりを作って、

笑顔の中に苦い色がある

彼の弱々しい笑顔が浮かんでしまう。誰も入れてもらえなかった笑顔が。

顔に偽クリスチャンのような「優しい」媚笑（びしょう）を湛（たた）え

心の底の動揺に刺激されてたくらみ出すと見える残虐な譎計（わるだくみ）

眼鏡の下の目にあからさまな軽蔑の色がある。

身震いするほど嫌

嫉妬を、大釜のなかのコールタールのように、雨上りの噴煙のように、泥といっしょに湧き立つ熱泉のように、はげしく掻き立てる

神経質らしく眉をきらめかし、射るような眼光

顔を鬼瓦にする

自分では平静を演じているつもりなのだろうけれど、緊張や、不安や、それに気づいてほしいという甘えが透けて見える。

思わず額に汗がにじみ出る

顔の表情が極端に乏しいところにあった。堅く閉じられた唇は、よほどの必要がなければ微笑みひとつ浮かべなかった。その両目は優秀な甲板監視員のように、怠りなく冷ややかだった。おかげで、彼女の顔が人々に鮮やかな印象を与えることはまずなかった。多くの場合人々の注意や関心を惹きつけるのは、静止した顔立ちの善し悪しよりは、むしろ表情の動き方の自然さや優雅さなのだ。　おおかたの人は青豆（人名）の顔立ちをうまく把握できなかった。いったん目を離すともう、彼女がどんな顔をしていたのか描写することができない。どちらかといえば個性的な顔であるはずなのに、細部の特徴がどうしてか頭に残らない。そういう意味では彼女は、巧妙に擬態する昆虫に似ていた。色やかたちを変えて背景の中に潜り込んでしまうこと、できるだけ目立たないこと、簡単に記憶されないこと、それこそがまさに青豆の求めていることだった。小さな子供の頃から彼女はそのようにして自分の身を護ってきたのだ。

鼻を膨らませていきり立った。

笑顔がゆったりと優しい

口元を引いて笑った。

照れ笑いして早足に去る

身を 反らして笑う

嬉しくてたまらない悪戯小僧のように笑いを殺す