階段の真下まで行った時、野呂が足を止め、ゆっくりとわたしのほうに顔を傾けると、わたしの頰に手をあてがってきた。ああ、ここでキスをされるのだな、と思った。 　酔いが感覚を鈍麻させていたために、わたしがそう思ったのと、彼が唇を合わせてきたのはほぼ同時だった。眠ろうとして目を閉じる時のように、わたしはそっと目を閉じた。

（自分の舌で触れた相手の舌の感触）溶けたガムのようだったあの舌

子猫のように体をくねらせてキスを投げる

ファーストキス

舌が口の中にすっぽりと収まるようなキス

お互いがまだ経験不足で気持ちと身体がバラバラに動いていた、付き合い始めの頃

葉子は木部が魂を打ちこんだ初恋の的（まと）だった。

（少女に見つめられて）その少女の留保のない率直な視線は、彼の身体からあらゆる力をもぎ取り、持っていってしまったようだった。なんという視線だろう。それは研ぎ澄まされた鋼の長い針のように、彼の胸を一直線に刺し貫いていた。背中まで突き抜けそうなくらい深々と。

サトウとの生活は錆付いた沼のようにひっそりと淀んでいた。

後背位を解いて座位で向き合うかたちをとり、そのまま倒れ込んでしばらくもつれ合い、再び後背位にもどる。そんな一連の動きのなかで、