（朝の挨拶）「おい、朝めしがまだだが貰えるかい」こんな風に挨拶よりも先に、信行がいう。

取ってつけたような挨拶

私が 挨拶 をすると、いつも少し笑って「こんにちは」と言った。

「耳が悪いって？」玄関へ出て来た信行は挨拶の代りにこれをいった。

「こんばんは。」 　というあいさつをした。 　宮本さんの年老いたお母さんは、宮本さんにそっくりなやり方で、静かに頭を下げた。習慣的な、かすかな笑顔で。《…略…》そして言葉を交わすこともなく別れた。

自分が早く話せないことに苛立つ時があった。頭の中には膨大なイメージが渦巻いているのに、それを取り出そうとすると言葉は液体のように崩れ落ちて捉まえることが出来ない。《…略…》一つ言葉が耳に入ると、そこから派生した別個の流れが生まれ、頭の中でいくつものイメージが交錯して、どこから手をつければいいのかわからなくなるのだ。

彼らはまるで涸れた井戸に石でも放り込むように僕に向って実に様々な話を語り、そして語り終えると一様に満足して帰っていった。《…略…》誰もが誰かに対して、あるいはまた世界に対して何かを懸命に伝えたがっていた。それは僕に、段ボール箱にぎっしりと詰め込まれた猿の群れを思わせた。僕はそういった猿たちを一匹ずつ箱から取り出しては丁寧に埃を払い、尻をパンと叩いて草原に放してやった。

（言いくるめられる）いつの間にか約束させられる。

（電話で急に話題が変わる）「だってピアスとか、指輪とか、金属じゃない？」 　その問いかけの内容があまりにも唐突だったので、はじめ私は彼女の母親がそばにきたか何かで続きを話せなくなってごまかしているのかと思った。

互いに話し合って落としどころを見つける