停車駅で席が空くとものすごい早い身のこなしで座り、梃子でも動かぬと決めたようにぎゅっと固めた上半身を丸めうつむく。たとえ前に老人や妊婦が立っても気づかぬフリをとおせる姿勢で、武道の型の如き気迫を漂わせてもいる。

ミュールを足に引っかけてブラブラさせている。

姿勢は良く、茶道の最中のような様子だった。

右の脚（あし）の上へ左の脚をのせたまま

ゴム草履をつっかけた足をブラブラさせている

ジャックナイフのように折りまげた小柄な身体

部屋の片隅に、捨てられた犬の母子のようにうずくまる

芋虫みたいに丸くなる

かたつむりがすっぽり空の中に閉じこもったように、手足をひっこめ丸くうつぶせになる

天保山（てんぽうざん）の安宿の二階で、何時（いつ）までも鳴いている猫の声を寂しく聞きながら、私は呆（ぼ）んやり寝そべっていた。