熱海の冬の太陽はまるで外国の暖かい国へでも来ているような錯覚をさえ起さしめた。

戦前の銀座の匂いは、まさにバターと香水の匂いがしていた。そのモダンな香りに井上も私も酔い痴れていたといってよい。

いい感じで観光スポットが点在する都市

熱海の町へ下りると、そこはもう車輛の騒音と排気ガスが渦巻く温泉都市であった。

オレンジ色に輝く東京タワー

やがて、酒宴と舞踏は深まった。威勢良き群衆は合唱から叫喚（きょうかん）へ変って来た。そうして、夜の深むにつれて、彼らの騒ぎは叫喚から呻吟（しんぎん）へと落ちて来ると、次第に光りを失う篝火と一緒に、不弥の宮の群衆は、間もなく暁の星の下で呟（つぶや）く巨大な獣（けもの）のように見えて来た。

（空襲）ぽん、ぽんと、花火が弾けるような音がしたので空を見た。 　真っ黒な、長い体をした飛行機が、東の空から西北へ向かって飛んでいく。その後ろに、黒い煙幕が浮かぶのが見えた。

海は、サンゴ礁の中とはいえ、あまり遠浅でなく泳ぎよかった。すき透った水は、まるでゼリーのように柔らかく優しく、下を見ると、きれいな魚が泳いでいた。海辺にねころんだり、本を読んだりしている人の中には、トップレスの女性も多かった。きれいな人は、美しさを誇るごとくだったが、ひどく太ったおばさんも、平気で裸になっていた。

ひとり死ぬと一つ墓石が立つ。だから戸数の割合にそれが多い。山の裾にも、畑の端にも、河原の崖ぷちにも、気楽に墓石が団欒（だんらん）していた。

焼夷弾が落ちてくるときには、ざあざあという音がします