(金魚鉢の)覆いを取ると、眼を開いたまま寝ていた小石の上の金魚中での名品キャリコは電燈の光に、眼を開いたまま眼を醒 して、一ところに固 っていた二ひきが悠揚 と連れになったり、離れたりして遊弋 し出す。身長身幅より三四倍もある尾鰭 は黒いまだらの星のある薄絹 の領布 や裳 を振り撒き拡げて、しばらくは身体も頭も見えない。やがてその中から小肥 りの仏蘭西 美人のような、天平 の娘子のようにおっとりして雄大な、丸い銅と蛾眉 を描いてやりたい眼と口とがぽっかりと現れて来る。
岡本かの子 / 金魚撩乱 ページ位置:58% 作品を確認(青空文庫)
この表現が分類されたカテゴリ
金魚
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......とき、くったりして窓際へ行き、そこに並べてある硝子鉢 の一つの覆 いに手をかける。指先は冷血していて氷のようなのに、溜 った興奮がびりびり指を縺 して慄えている。やっと覆いを取ると、眼を開いたまま寝ていた小石の上の金魚中での名品キャリコは電燈の光に、眼を開いたまま眼を醒 して、一ところに固 っていた二ひきが悠揚 と連れになったり、離れたりして遊弋 し出す。身長身幅より三四倍もある尾鰭 は黒いまだらの星のある薄絹 の領布 や裳 を振り撒き拡げて、しばらくは身体も頭も見えない。やがてその中から小肥 りの仏蘭西 美人のような、天平 の娘子のようにおっとりして雄大な、丸い銅と蛾眉 を描いてやりたい眼と口とがぽっかりと現れて来る。 二三年前、O市に水産共進会があって、その際、金牌 を獲 ち得たこの金魚の名品が試験所に寄附 されて、大事に育てられているのだ。すでに七八歳 になっているので、ちょっと......
単語の意味
悠揚(ゆうよう)
遊弋(ゆうよく)
身体(しんたい)
長身(ちょうしん)
蛾眉(がび)
小太り・小肥り(こぶとり)
銅(どう)
暫く・姑く・須臾(しばらく)
悠揚・・・ゆったりと落ち着いているさま。慌しくなく、ゆとりがあるさま。
遊弋・・・艦船が水の上の警戒のために動き回ること。うろうろと動き回ること。
身体・・・人のからだ。肉体。
長身・・・背が高いこと。また、その体。長躯(ちょうく)。
蛾眉・・・蛾の触角のように、細く弧を描いた美しい眉(まゆ)。転じて、美人。
小太り・小肥り・・・やや太っていること。太り気味のこと。また、そのさま。「小」は、品詞に付いて、「少しの」「なんとなく」などの意味をあらわす。
銅・・・金属元素のひとつ。元素記号Cu、原子番号29。赤っぽい金属。叩いたり引っ張ったりすることで、壊れず形を変え、熱と電気をよく通す。湿った空気中で酸化し、緑青色に変化する。電線や貨幣、銅製器具などの素材になる。あるいは青銅や黄銅などの合金にして使用される。
暫く・姑く・須臾・・・1.長いと感じるほどではないが、すぐともいえないほどの時間。ちょっとの間。一時的。
2.ちょっと待った!
2.ちょっと待った!
ここに意味を表示
金魚の表現・描写・類語(水中の生き物のカテゴリ)の一覧 ランダム5
喰べられもしない観賞魚
岡本かの子 / 金魚撩乱
キャリコが粗腐病にかかって、身体が錆 だらけになり、喘 ぐことさえ出来なくなって水面に臭 く浮いている姿
岡本かの子 / 金魚撩乱
生物にして無生物のような美しい生きもの金魚
岡本かの子 / 金魚撩乱
和金の清洒 な顔付きと背肉の盛り上りを持ち胸と腹は琉金の豊饒 の感じを保っている。
岡本かの子 / 金魚撩乱
このカテゴリを全部見る
「水中の生き物」カテゴリからランダム5
まるで大きなオパールを嵌 めこんだような(蝶貝)
宮本百合子 / 伸子
濁った流れの中に、黒っぽいものが、渦を水に曳 いて動くのが見えた。
岡本かの子 / 河明り
生物にして無生物のような美しい生きもの金魚
岡本かの子 / 金魚撩乱
金魚の鰭 だけが嬌艶 な黒斑を振り乱して宙に舞った
岡本かの子 / 金魚撩乱
同じカテゴリの表現一覧
水中の生き物 の表現の一覧
風景表現 大カテゴリ