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星空の下を歩いていたら、涙が後から後からあふれはじめた。道も足元も、静まり返った街並みも熱くゆがんで見えた。すぐに息がうっとつまってしまい、苦しかった。それで必死に冷たい風を吸い込んでみても、細くしか胸に入ってこないように感じた。瞳の奥にひそむとがったものが風にさらされて、どんどん冷えてゆく気がした。 いつも普通に目に入ってくる電柱や街灯や止めてある車が、黒い空が、うまく見えなかった。すべてが熱気の向こうにあるようにシュールに美しくゆがんで光り、目の前にぐんとせまってくる。私は自分のエネルギーがものすごい勢いで全身から出ていってしまうのを止められない、と感じた。しゅうしゅう音を立てて、闇に消えてゆく。
吉本 ばなな / 満月 キッチン2「キッチン (角川文庫)」に収録 ページ位置:5% 作品を確認(amazon)
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瞳の潤い・なみだ目
泣く・涙を流す
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前後の文章を含んだ引用
......スと留守番電話を何度も確かめて、ふらふらとアパートを出た。 気づくと場面はすぐに、冬の夜道を田辺家に向かって歩く私、になっていた。カギをちゃりちゃりいわせながら星空の下を歩いていたら、涙が後から後からあふれはじめた。道も足元も、静まり返った街並みも熱くゆがんで見えた。すぐに息がうっとつまってしまい、苦しかった。それで必死に冷たい風を吸い込んでみても、細くしか胸に入ってこないように感じた。瞳の奥にひそむとがったものが風にさらされて、どんどん冷えてゆく気がした。 いつも普通に目に入ってくる電柱や街灯や止めてある車が、黒い空が、うまく見えなかった。すべてが熱気の向こうにあるようにシュールに美しくゆがんで光り、目の前にぐんとせまってくる。私は自分のエネルギーがものすごい勢いで全身から出ていってしまうのを止められない、と感じた。しゅうしゅう音を立てて、闇に消えてゆく。 両親が死んだ時はまだ子供だった。祖父が死んだ時は、恋をしていた。そして祖母が死んでたったひとりになってしまった時、その時よりも今、ずっと孤独を感じる。 足を進......
単語の意味
星空(ほしぞら)
胸(むね)
星空・・・晴れた夜、星がたくさん輝いている空。
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涙目・瞳の潤いの表現・描写・類語(目・瞳のカテゴリ)の一覧 ランダム5
眼 尻 に、涙がちょっぴり 溜った。
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
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泣く・涙を流すの表現・描写・類語(動作・仕草・クセのカテゴリ)の一覧 ランダム5
涙を感動の物差しとして誰かに示す
又吉直樹「劇場(新潮文庫)」に収録 amazon
(うどんを)食べている途中から、身体が温まったせいかまた涙が溢れ出てくる。俯くと鼻腔にまで流れ込んで喉がふさがってしまう。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
病室に響き渡るような大きな声で泣いていた
百田尚樹「永遠の0」に収録 amazon
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「目・瞳」カテゴリからランダム5
落ち着きなく周囲を見回す。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
大きな顔の端っこのほうに、飯粒のように白くくっついた小さな眼
上林 暁 / 薔薇盗人「昭和文学全集〈14〉」に収録 amazon
「泣く」カテゴリからランダム5
背中が声もなく波打った。
岡本かの子 / 金魚撩乱
心理的な揺れや変化が直接的にはなんの刺激もない目玉から水分を出すに至るというのは
滝口 悠生 / 死んでいない者 amazon
目からは汁のように涙が垂れて、頬にだらだら広がっていった
川上 未映子「乳と卵(らん) (文春文庫)」に収録 amazon
「動作・仕草・クセ」カテゴリからランダム5
吉川英治 / 治郎吉格子
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