だんだん人の姿のようなものが見えてきたんだ。まるで現像液の中に入れた写真に人の姿が浮かびあがってくるみたいにね。

彼が、まるで黒いゴム風船のように、飄然とこの屋上庭園に上って来た

暗がりから影のように姿を現す

泡のように生じてはすぐ消える

地から湧くごとく出現した黒装束の一団

あの女のまなざし一つで、身を滅ぼした男の数は、この炎天にひるがえる燕（つばくら）の数（かず）よりも、たくさんある。

信じられないほどの数

靴を脱いで放れば当たるといわれるほど数が多い

（ポストはどこにでもある）ポストはどこにでもあり、かつ捜そうとするとなかなか会えない。心細い街角に不意にあったり。晴れた日も雨の日も夜中も、世界中に、まるで夜空の月がすべての水に映るようにポストはある。

見本市のようにたくさんある

さながら品評会（のようにたくさんある）

塩を浴びたナメクジのように小さくしぼむ

鳴りをひそめていた者たちが、一方の方角へ向って、その跫音と総立ちの声を、どっと、暴風のように集めて行った。

滅入るほどの少なさ

石の下のダンゴ虫のようにワラワラと出現する。

疾風のように現れて、疾風のように去っていく

スイッチが入った（を切った）みたいに突然～

不意打ちのように

「殺人の話、聞いた？」 　後ろ姿の幹子が、ふいに言った。 「何？　なんて？」 　びっくりして私はたずねた。 「昨日このへんは殺人事件の話でもちきりだったのに。」 　彼女は答えた。みそ汁の 鍋 を火にかけながら、それはあまりに唐突だったので、まるで悪い夢の中に不自然に響くせりふのように聞こえた。

（頑固）斧でも割れない石頭