庭の池は清冽な湧水で、これに見事な鯉が群れをなして遊弋していた。

澄んだ鏡のような水。

「淵には九つの性質がある。静水をじっと湛（たた）えているのも淵だ。流れて来た水のしばらく淀（よど）むところも淵だ。底から湧（わ）いた水が豊かに溜（たま）り、そしてまた流れ出るところも淵だ。滴（した）たって落つる水を受け止めているのも淵だ――」 　父親は大体こんなふうに淵が水を受け入れる諸条件を九つの範疇（はんちゅう）にまとめて、 「これを九淵の説と云って、水はいろいろの変化で向うが、それを受け容れる淵はたった一つなのだ。この淵の無心な気持ちになっていれば世間がどう変りこっちにどう仕向けようと、余悠綽々（よゆうしゃくしゃく）なのだ。

青黒い湖水

遠方に模糊と煙るが如く白くひろがっている十三湖

入江を包んだ岬の先端で崩れる白い波頭が、歯のようにきらきらと光った。

じめっとした熱風が海のほうから吹いてくる

罅（ひび）の入った壁からは、血が流れるように水が垂れている。

海がどこまでも渺々として青い

高い波に飲み込まれて上下左右の方向感覚を失って海底深く沈みこみ、なす術もなく翻弄される