ぽつと、雨が、顔に触った。

水を吸い込んだ草履が重くふやけ、ビシャッ、ビシャッと、伸子の足の下で泥を跳ね上げた。

（大雪の日に）コートも着ない私の袖は、ぐっしょり濡れてしまって、みじめなヒキ蛙（がえる）のようだ。

ジャブジャブと泳ぐように雨の中を歩く

雨の中をとぼとぼと濡れて帰る

（大雪の日に）コートも着ない私の袖は、ぐっしょり濡れてしまって、みじめなヒキ蛙（がえる）のようだ。

規則正しい砂時計のようにしたたる

（空港の風景）十一月の冷ややかな雨が大地を黒く染め、雨合羽を着た整備工たちや、のっぺりとした空港のビルの上に立った旗や、BMWの広告板やそんな何もかもをフランドル派の陰うつな絵の背景のように見せていた

海に沈んでしまった古代の伝説の大陸のことを思った。《…略…》たぶん十一月の冷たい雨の降る夜に傘を持っていなかったせいだろう。《…略…》僕は自分が遠い昔に海の底に没した伝説の大陸のことを想うのだ。光は淡く 滲み、音はくぐもり、空気は重く湿っているのだ。

ぽつんぽつん。ぽたぽた。