何という形のいい鼻、何という形のいい唇、彼は碁をやる人が長考のあげくに置く石のように、房子の美しさの細部の一つ一つを、おぽろげな闇の中へ置いて眺めた。

尖った鼻先が少し上向き加減の、愛くるしい顔立ち

一度見たら頭にずっと残る、蟲惑的な美貌

つんと鼻すじの通った美少年

僕は息を呑み、呆然と彼女を眺めた。口はからからに乾いて、体のどこからも声はでてこなかった。白いしっくいの壁が一瞬波打ったように思えた。店内の話し声や食器の触れ合う音がぼんやりとした淡い雲のようなものに姿を変え、そしてまたもとに戻った。波の音が聞こえ、懐しい夕暮の匂いが感じられた。しかし、それらは何もかもほんの何百分の一秒かのあいだに僕が感じたもののほんの一部にすぎなかった。

色白できめが細かいが、平たく陰影の乏しい顔

かの女の顔色は女中に見咎（みとが）められる程真青だった。

日をまともに受けて皺深い顔がくしゃくしゃになる

マスカラをぬったまつ毛が、涙にぬれて視線の先でもつれる。

かたねりの白粉（おしろい）を首筋につけている。浅黒い肌が雲のように淡く消えてゆく。