(チョコレート嚢胞の手術)指先でつまんで、口の中で溶かしたくなるような言葉だ。 しかし、メスの刃の下からあふれ出てきた液体は、言葉のかわいらしさとは正反対に、吐き捨てたくなるような不快な色をしている。血液が腐敗した色だ。ビニールの手袋の上にとろりと広がって、今までに溜め込んできた体温や体臭を一遍に放り出している。その傍で卵巣はすっかり萎びている。
小川洋子 / 完璧な病室「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 ページ位置:53% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
手術(室)
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......人がつぶやく。『チョコレートのうほう』 学生を振り返りながら、わたしもその言葉を口の中で繰り返してみる。 ──何てかわいらしい言葉だろう。── とわたしは思う。指先でつまんで、口の中で溶かしたくなるような言葉だ。 しかし、メスの刃の下からあふれ出てきた液体は、言葉のかわいらしさとは正反対に、吐き捨てたくなるような不快な色をしている。血液が腐敗した色だ。ビニールの手袋の上にとろりと広がって、今までに溜め込んできた体温や体臭を一遍に放り出している。その傍で卵巣はすっかり萎びている。 ──初めて出会う色だ。── とわたしは感じて、しばらくそこから目が離せなかった。チョコレート嚢胞から流れ出してきた液体の、温もりや密度や匂いを、目で味わうよう......
単語の意味
指先(ゆびさき)
指先・・・手や足の、指の先端。指の先っぽ。指頭(しとう)。指端(したん)。
ここに意味を表示
手術(室)の表現・描写・類語(イベントのカテゴリ)の一覧 ランダム5
(卵巣摘出)不透明な白いビニールの手袋をはめた手が、何本も何本もその肉体の上で交差する。内臓は赤く充血して、鮮やかで、きれいでさえある。そして奥の方から卵巣が引っ張り出される。重さを量るように、一人の医師がそれを掌にのせる。卵巣は、震えるように小さく揺れる。彼女がこれを抱え込んでいた時の痛みが、全部この中に詰まっているかのように、表面がピンと張り詰めて、緊張している。医師がメスの先を表面に突き立てると、一筋の裂け目が走る。
小川洋子 / 完璧な病室「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
緇い俎板(まないた)のような簡単な手術台
加能 作次郎 / 世の中へ amazon
「再手術はそんなに厄介ですか?」 桑木は孝子が口を出す前に云った。 「ええ、はっきり申上げて簡単ではないようです。ちょうど着物を縫うのでも、新しいのを仕立てるよりも、古いのを縫いかえすほうが面倒で手間をとるのと似ていますわ」
松本 清張 / 与えられた生「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
無影燈のまぶしい青白い光も、海草のようにゆっくり動いている白い手術着をきた人間たちの姿も
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
「イベント」カテゴリからランダム5
鬱蒼と木の繁った小高い島のような古墳
村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
道路は自動車がひしめき合い、よたよたと行ったり来たりしている
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon
「病院」カテゴリからランダム5
(人体実験室)この四角い解放治療場の全体が、さながらに緑の波の中に据えられた巨大な魔術の箱みたように感じら
夢野久作 / ドグラ・マグラ
無影燈のまぶしい青白い光も、海草のようにゆっくり動いている白い手術着をきた人間たちの姿も
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
同じカテゴリの表現一覧
イベント の表現の一覧
病院 の表現の一覧
暮らしの表現 大カテゴリ