黒崎は唇の片端をあげて、しばらく 揶揄 するように値踏みするように十和子の顔を見ていた。

穴のあく程見詰めて

永遠に消えない刺青でも彫るようにして、自分自身の内側に刻印する。

審査員の目つきで彼女をじろじろと眺め

頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を這わせる

まっくらな夜空を埋めつくして雪が舞っていた。

風は、割合に粒の大きい軽（かろ）やかな初冬の雪片をあおり立てあおり立て横ざまに舞い飛ばした。雪片は暮れ残った光の迷子（まいご）のように、ちかちかした印象を見る人の目に与えながら、いたずら者らしくさんざん飛び回った元気にも似ず、降りたまった積雪の上に落ちるや否や、寒い薄紫の死を死んでしまう。ただ窓に来てあたる雪片だけがさらさらさらさらとささやかに音を立てるばかりで、他のすべてのやつらは残らず唖（おし）だ。快活らしい白い唖の群れの舞踏――それは見る人を涙ぐませる。

（みぞれ）庭の天井を見上げた。硝子（ガラス）は湯気で曇っているが、飛白（かすり）目にその曇りを撥（はじ）いては消え、また撥く微点を認めた。霙（みぞれ）が降っているのだ。

人為的生活が、雪という天然の威力に押えつけられ、逼塞（ひっそく）した隙間（すきま）から、ふだんは聞取れない人間の哀切な囁（ささや）きがかすかに漏れる

無数の白刃を振り回すように雪が飛ぶ

しんしんと粉雪が音もなく降り続ける

雪の凍みる音が鈴のようにきこえるのだ。

樹々の梢に円々と附着している雪は、風が吹いて梢がゆらぐたびに、蒼白い光の塊りとなって地になだれて落ちてゆく。

あられの白い粒が周囲に乾ききった音を立てる

雪笹山の背に薄墨をながしたように雨雲が走ったと思うと、パラパラと檐（のき）をたたく霰の音がきこえはじめた。

靄がかかったように誰の顔かはっきり見分けられない

目は泰山ではなく、まっすぐに壁に向けられたまま

鏡でも見るようにつくづくと見た。

お夏さんは黒い大きな目をまたたきもさせないで私を見ている。甘えたい気持ちでいっぱいなり。

何故かしらフッと口を噤（つぐ）んだ。恰（あたか）も何かしら重大な事を言い出す前のように、私の顔を凝視していた