遠い水は瑠璃色（るりいろ）にのして、表面はにこ毛が密生しているように白っぽくさえ見える。

鏡のように凪（な）いだ夕暮前の湖面

石油を流したような光彩が、一面に浮いている

だいぶ高くなった日の光がぱっと大森田圃（おおもりたんぼ）に照り渡って、海が笑いながら光るのが、並み木の向こうに広すぎるくらい一どきに目にはいるので、軽い瞑眩（めまい）をさえ覚えるほどだった。

花のような模様を描いて、海面のところどころに日光を恵んでいた空

泡立つ激浪が、じゃま物へでも食ってかかるように舷側へぶつかってくる

蝌蚪（おたまじゃくし）の尻尾のように、入り江のどん詰まりが急に細くなる

潮の香の漂った濁った小さな運河

車のヘッド・ライトが鮮やかな光の川となって、街から街へと流れる

沈黙を包む波音は、夜が更けるとともにくっきりと鮮やかに聞こえてくるような気がした。目の前に開けた果てしなく大きな眺めが 鬱積 していたものをきれいに取り払い、きれいな大気が心を満たしていった。でも何か光るものがあって、いつまでも消えなかった。静かだった。永遠の、世界が終わるような、清らかな夜だった。