二人の子供に一匹の犬が川上の方へ歩いて行く。犬は戻って、ちょっとその新聞紙を嗅（か）いで見、また子供のあとへついて行った。

犬は鎖をピンと張って前を進もうとする。前方を見て吠え、しきりに進みたがっている。

この犬の大きなあたたかい雑巾のような舌

犬は黙ったまま近づく人の動向を眺めている

西洋の犬は日本の犬のように人を見ても吠（ほ）えたりおどしたりしない、その犬たちが秋から冬はよけいにおとなしく人なつこくなる。

（めったに人の通らない路で人間観察なんて）僕みたいな男はよくよくの閑人なんだ

二人の子供に一匹の犬が川上の方へ歩いて行く。犬は戻って、ちょっとその新聞紙を嗅（か）いで見、また子供のあとへついて行った。

その人達がなにかはかない運命を持ってこの浮世に生きている。というふうに見えた

（他人の家の窓を見るなんて）閑（のど）かな趣味だろう

蝉取竿（せみとりざお）を持った子供があちこちする。虫籠を持たされた児（こ）は、時どき立ち留まっては籠の中を見、また竿の方を見ては小走りに随（つ）いてゆく。物を言わないでいて変に芝居のようなおもしろさが感じられる。

猫の鼻が冷たくてその毛皮が戸外の霜で濡れている

護謨管（ゴムかん）のごとき柔かき尻尾

柴犬が鼻筋に 獰猛 な皺を寄せて、低く 唸っている。

（真っ黒な老犬）庭の小さな陽だまりでうずくまっていると、色あせた古い絨毯のようだ。

馬のたてがみのざらざらした手ざわりが棕梠（しゅろ）の毛のように手にまといつく

二人の子供に一匹の犬が川上の方へ歩いて行く。犬は戻って、ちょっとその新聞紙を嗅（か）いで見、また子供のあとへついて行った。

（詩人）詩人は共喰いの共産党だ。持ってるものは平等につかう。借金もそれ相当なもの。手近な目的はただ食べる事に追われるばっかり。人命終熄（しゅうそく）の一歩手前でうろうろしているばかりなり。天才は一人もいない。自分だけが天才と思っているからよ。それ故、私たちはダダイスト。只何となく感じやすく、激しやすく、信念を口にしやすい。何もないくせに、まずここんところから出発してゆくより仕方がない。

パチ、パチ、と音がする。中で、将棋（しょうぎ）をやっているらしい。

ゲームのコントローラーをカシャカシャ動かしながら、テレビに視線を集中させている

ハンカチのイニシャルは見事だった。安っぽい一枚の布切れが、片隅にたった二つ、文字を刺繡されただけで優美な服飾品に変身していた。