家の前の栗（くり）の木の列は変に青く白く見えて、それがまるで風と雨とで今洗濯（せんたく）をするとでもいうように激しくもまれていました。

がやがやと騒ぐ聴衆のような雲や波の擾乱

雨音が際だち、窓が風でがたがた揺れた。ずうっと、永遠に 嵐 が続くようなうるささだった。

店に人が入ってくる度に、いらっしゃいませの声と共に雨風の音が飛び込んできた。

いつの間にか去って、微かに遠雷のように聞こえる嵐の音

最初の 嵐 が襲ってきました。五月六日の夜のことです。強風がまず東南から吹きつけてきました。熟練した二十五人の水夫たちも 帆桁 をおろし 前檣ぜんしょう に小帆を揚げましたが、夜半には風波に舟を 委せるだけで、そのうち船の前方に裂け目が入り、浸水がはじまりました。ほとんど一晩の間、我々はこの裂け目に布をつめ、水を外にくみ出す作業を続けねばなりませんでした。

（山のような大波）見る見るもり上った山の、恐ろしく大きな斜面に玩具（おもちゃ）の船程に、ちょこんと横にのッかることがあった。と、船はのめったように、ドッ、ドッと、その谷底へ落ちこんでゆく。今にも、沈む！　が、谷底にはすぐ別な波がむくむくと起（た）ち上ってきて、ドシンと船の横腹と体当りをする。

車体の揺れが、細切れに、木村の体を突き上げてくる。

天地も覆（くつがえ）る大雷雨、大颶風（ぐふう）、大氷雪が落（おち）かかって

自然は何かに気を障（さ）えだしたように、夜とともに荒れ始めていた。