熟し切った太陽の下でセーヌ河のうす赫（あか）い土色の水が流れて居た。

夏の過酷な太陽

霧は少しうすれて、どんより暗い空の一隅に、古い血のように濁った赤い色が一と筋滲んでいるのが見えた。

青々とした空があり、赤い太陽が花のように照り

（好転しない病で絶望と倦怠の日々を過ごしており、療養のため）日を浴びるときはことに、太陽を憎むことばかり考えていた。結局は私を生かさないであろう太陽。しかもうっとりとした生の幻影で私を瞞（だま）そうとする太陽。おお、私の太陽。私はだらしのない愛情のように太陽が癪（しゃく）に触った。

とちの実のくらい

（大きい）すべてを瞳に映すのは不可能だった。

針の先ほど小さい

ミニカーほどの大きさ

落ち込んで小さくなる

（明け方の月）月は巨大な赤い 歪形わいけい となって、 遥かな林の頂にかかっていた。その弱い光は野に充満した乳色の光と違っていた。ここにあるのは、もう 黎明れいめい の光であった。

白い飛行船のように、悠々と白雲が浮いている。

澄み切った月が、暗く濁った燭（しょく）の火に打ち勝って、座敷がいちめんに青みがかった光を浴びる

杉山の上から青空の透いて見えるほど淡い雲が絶えず湧いて来るのを見たとき、不知不識（しらずしらず）そのなかへ吸い込まれて行った。湧き出て来る雲は見る見る日に輝いた巨大な姿を空のなかへ拡げるのであった。 　それは一方からの尽きない生成とともにゆっくり旋回していた。また一方では捲きあがって行った縁（へり）が絶えず青空のなかへ消え込むのだった。こうした雲の変化ほど見る人の心に言い知れぬ深い感情を喚（よ）び起こすものはない。

釜のごとく澄んだ三日月

柔らかい甲羅に脱ぎかえたばかりの蟹のように無力

ミニカーほどの大きさ

これで全てが決まるというほどの

神の前にあっては葦のように弱い人間の姿

突進するラガーのように凄まじい力