(蟹の這う音は)舟の中の、ありとあらゆるところから、蟹の這う音が聞こえてきた。それはベニヤ板の向こうからも聞こえていた。花火が夜空にあがっていく音にも似ていたし、誰かが 啜り泣いているような音にも思えた。
宮本 輝 / 泥の河「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 ページ位置:82% 作品を確認(amazon)
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泣き声
打ち上げ花火
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前後の文章を含んだ引用
......吸って青白く光っている喜一の瞳が、信雄の横顔を射るように見ていた。 舟べりに置かれた竹箒の中から、無数の蟹が這い出てきて、いつのまにか座敷の中を這い廻り始めた。舟の中の、ありとあらゆるところから、蟹の這う音が聞こえてきた。それはベニヤ板の向こうからも聞こえていた。花火が夜空にあがっていく音にも似ていたし、誰かが啜り泣いているような音にも思えた。 信雄は舟の中に身を屈めて、その不思議な音に耳を澄ましていた。ポンポン船が川を上ってくる音で信雄は我に返った。「……僕、帰るわ」 信雄がそう言うと、「帰らんとき......
単語の意味
夜空(よぞら)
蟹(かに)
夜空・・・夜の空。
蟹・・・エビ目(十脚類)カニ亜目(短尾類)の甲殻類の総称。水中や水辺にすむ。5対の足のうち第1対は鋏(はさみ)となっていて、捕食に役立つ。横向きに歩行するのが一般的であるが、前向きに歩く種も少なくない。食用。
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泣き声の表現・描写・類語(声・口調のカテゴリ)の一覧 ランダム5
そしてしばらくは葉子の絶望的な泣き声ばかりが部屋 の中の静かさをかき乱して響いていた。
有島武郎 / 或る女
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打ち上げ花火の表現・描写・類語(夏のカテゴリ)の一覧 ランダム5
なんとすばらしい火の美だろう、恐い魔術だろう、瞬間の光焔の中には見上げたものの魂がみんな燃えてしまった。
吉川英治 / 銀河まつり
どウンと一つ音がして、あっと思や、消えっちまう
吉川英治 / 銀河まつり
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「声・口調」カテゴリからランダム5
「ちゃん付けすんなよー」としかめっ面をしていたけれど、高い声で言われても全然迫力がなかった。
村田 沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」に収録 amazon
「泣く」カテゴリからランダム5
赤児は火のつくように泣いた。
直哉, 志賀「暗夜行路 (新潮文庫)」に収録 amazon
「夏」カテゴリからランダム5
真っ黒な空には星が見当たらず、残暑の余韻の籠もった蒸し暑い夜気の中に、虫の音が響いている。
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon
この切ない、 哀しいばかりに蒼く 瞬いている光の塊
宮本 輝 / 螢川「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
風鈴が折り折り思い出したようにかすかに鳴る。
森鴎外 / 阿部一族
「空・中空」カテゴリからランダム5
森の柏の静まった葉波は一斉に濡れた銀の鱗 のように輝き出した。
横光利一 / 日輪
まるでついさっき灰の山をくぐり抜けてきたみたいに全体が不思議な白みを帯びていた
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
雲は岩のように低く垂れ
村上 春樹 / 1973年のピンボール amazon
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