揺れは最高潮に達した。ドーンと重く山が鳴り、鳥が姿を見せないままけたたましく囀った。斜面の木が激しく梢を揺らし、杉の花粉が豪雪地帯もかくやとばかりにいっせいに降り注ぐ。 　ふ、腐海！ 　俺は思わず、ナウシカを連想した。「午後の胞子を飛ばしている……」ってやつだ。こんな幻想的な光景に、まさか現実でお目にかかれるとは思ってなかった。 　音が消えた。黄金色に輝く小さな粒が、視界を舞って地面に降り積む。

山の麓に雲みたいに白く広がる硫黄の煙

どこまでも撫（な）で肩（がた）の柔かい線

白い鋼鉄の固さで空に突き出ている岩峰

バケツを伏せたような峯が聳えている。

田舎 駅についてドアが開くと、空気の匂いが変わったことがわかった。もの音の響き方も心なしか違ってきたようだった。沿線に畑が目立つようになり、農家風の建物が増えていった。乗用車よりは軽トラックの数が多くなっていった。

道を通る自動車の音すらきこえない。

まるで時なんて流れていないかのように、いつまでも昔とおなじ風景。

大木の日蔭にある草が枯れて行くように小河内は発展する東京の犠牲になって枯れて行くのである。

田舎の通りには人がいなくて、自動車が通ることも稀で、ただ静かに草木を渡る風の音がした。

森林全体が吠えるような悲鳴をあげ、降りそそぐ水しぶきにけむってしまった。

とある土曜日の午後。立川駅周辺は大勢の買い物客と買い物しない客で大混雑。

寝そべったような淋しげな島

タクシーが急な上り坂に差しかかり、車体がガクンと揺れた。

霧が谷に満ちて、大きく渦巻くように動いている