野外は、真冬の匂いがした。 　冷たい空気に混じって、これからやってくる本当の寒さの予感が、体の中に伝わってくる。

冬はまだ檻のように、仄暗く頑なに、その前面に立ちふさがっていた。

雪解けで道があんこのようにこねこねしている

（不忍の池の枯れ蓮）漆のような黒い水に、枯れ蓮（はす）の茎や葉が一層くろぐろと水面に伏さっているのが窺（のぞ）かれる。その起伏のさまは、伊香保の湯宿の高い裏欄干（うららんかん）から上（かみ）つ毛野（けの）、下（しも）つ毛野（けの）に蟠（わだかま）る連山の頂上を眺め渡すようだった。そのはろばろと眺め渡して行く起伏の末になると、枯蓮の枯葉は少くなり、ただ撓（たわ）み曲った茎だけが、水上の形さながらに水面に落す影もろとも、いろいろに歪（ゆが）みを見せたＯの字の姿を池に並べ重ねている。

音を立てずに肌を透す隠忍な質の冬

枯れて枝だけをのばす街路樹。

赤松の間に二三段の紅（こう）を綴った紅葉（こうよう）は昔（むか）しの夢のごとく散ってつくばいに近く代る代る花弁（はなびら）をこぼした紅白（こうはく）の山茶花（さざんか）も残りなく落ち尽した。

天候の急変が告げているらしい霧の中に冬のにおいが混じる

風はないけれども月の白さでひどく冷え込んだような晩

長い冬の耐えがたい重たさにも耐えてきた私たちは、しらずしらず落葉松のようになだらかな抵抗法をも会得してしまう。