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(翡翠という水泳の飛び込み)青海流の作法からいうと翡翠の飛込み方は、用意の号令で櫓の端へ立ち上って姿勢を調え、両腕を前方へさし延べるときが挙動の一である。両手を後へ引いて飛込みの姿勢になるときが二で、跳 ね出す刹那 が三の、すべてで三挙動である。いま小初は黙 って「一」の動作を初めたが、すぐ思い返して途中 からの「二」と号令をかけ跳び込みの姿勢を取った。 それは、まったく翡翠 が杭 の上から魚影を覗 う敏捷 でしかも瀟洒 な姿態である。そして、このとき今まで彫刻的 に見えた小初の肉体から妖艶 な雰囲気 が月暈 のようにほのめき出て、四囲の自然の風端の中に一箇 不自然な人工的の生々しい魅惑 を掻 き開かせた。と見る間に「三!」と叫 んで小初は肉体を軽く浮び上らせ不思議な支えの力で空中の一箇所 でたゆたい、そこで、見る見る姿勢を逆に落しつつ両脚 を梶 のように後へ折り曲げ両手を突き出して、胴 はあくまでしなやかに反らせ、ほとんど音もなく水に体を鋤 き入れた。
岡本かの子 / 渾沌未分 ページ位置:19% 作品を確認(青空文庫)
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水に飛び込む
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前後の文章を含んだ引用
......空虚に丸い。 ざわざわ鳴り続け出した蘆洲の、ところどころ幾筋も風筋に当る部分は吹き倒 れて泡 をたくさん浮 かした上げ潮が凪 ぎあとの蘆洲の根方にだぶつくのが覗 ける。 青海流の作法からいうと翡翠の飛込み方は、用意の号令で櫓の端へ立ち上って姿勢を調え、両腕を前方へさし延べるときが挙動の一である。両手を後へ引いて飛込みの姿勢になるときが二で、跳 ね出す刹那 が三の、すべてで三挙動である。いま小初は黙 って「一」の動作を初めたが、すぐ思い返して途中 からの「二」と号令をかけ跳び込みの姿勢を取った。 それは、まったく翡翠 が杭 の上から魚影を覗 う敏捷 でしかも瀟洒 な姿態である。そして、このとき今まで彫刻的 に見えた小初の肉体から妖艶 な雰囲気 が月暈 のようにほのめき出て、四囲の自然の風端の中に一箇 不自然な人工的の生々しい魅惑 を掻 き開かせた。と見る間に「三!」と叫 んで小初は肉体を軽く浮び上らせ不思議な支えの力で空中の一箇所 でたゆたい、そこで、見る見る姿勢を逆に落しつつ両脚 を梶 のように後へ折り曲げ両手を突き出して、胴 はあくまでしなやかに反らせ、ほとんど音もなく水に体を鋤 き入れた。 目を眩しそうにぱちつかせて、女教師の動作の全部を見届けた貝原は 「型が綺麗 だなあ」 と思わず嘆声 を挙げてやや晦冥 になりかけて来た水上三尺の辺を喰 い付きそうな表情......
単語の意味
翡翠・川蝉(かわせみ・ひすい・しょうびん)
妖艶・妖婉(ようえん)
姿態・姿体(したい)
暈(かさ)
敏捷(びんしょう)
月暈(つきがさ・げつうん)
肉体(にくたい)
叫ぶ・号ぶ(さけぶ)
刹那(せつな・せちな)
翡翠・川蝉・・・「翡翠」の読み「かわせみ」「ひすい」「しょうびん」
「川蝉」の読み「かわせみ」
1.(「「かわせみ」「ひすい」「しょうびん」」と読んで)
カワセミ科の鳥。スズメより少し大きい鳥。背中・尾は美しい瑠璃色。尾は短く、嘴(くちばし)は鋭く長く、足は赤い。川辺に住み、魚をとって食べる。見た目の美しさから「空飛ぶ宝石」「水辺の青い宝石」という異名を持つ。
2.(「ひすい」と読んで)鳥のカワセミの別名。また、カワセミの羽の色に似た、深緑の半透明な宝石(ジェードの和名)。宝石の「ひすい」は、「ジェダイト(硬玉)」と「ネフライト(軟玉)」の2種類に分類できる。両者はまったく別の鉱物だが、見た目で区別がしにくいので、どちらも「翡翠」と呼ばれる。
「川蝉」の読み「かわせみ」
1.(「「かわせみ」「ひすい」「しょうびん」」と読んで)
カワセミ科の鳥。スズメより少し大きい鳥。背中・尾は美しい瑠璃色。尾は短く、嘴(くちばし)は鋭く長く、足は赤い。川辺に住み、魚をとって食べる。見た目の美しさから「空飛ぶ宝石」「水辺の青い宝石」という異名を持つ。
2.(「ひすい」と読んで)鳥のカワセミの別名。また、カワセミの羽の色に似た、深緑の半透明な宝石(ジェードの和名)。宝石の「ひすい」は、「ジェダイト(硬玉)」と「ネフライト(軟玉)」の2種類に分類できる。両者はまったく別の鉱物だが、見た目で区別がしにくいので、どちらも「翡翠」と呼ばれる。
妖艶・妖婉・・・美しくて、男を誘惑しそうな怪しい色っぽさがあるさま。
姿態・姿体・・・動きを含め、からだの線が作り出す見た目。体つき。
「態」は訓読みで「すがた、なり」と読める。
「態」は訓読みで「すがた、なり」と読める。
暈・・・1.光の輪。ときどき太陽を囲うようにできるドーナツ形の光。また、その現象。ハロ。
2.疲れたときに目の周りに出てくる黒いあざのようなもの。「暈」で「くま」とも読む。
2.疲れたときに目の周りに出てくる黒いあざのようなもの。「暈」で「くま」とも読む。
敏捷・・・動作や頭の回転がすばやいこと。また、そのさま。
月暈・・・月の周囲にあらわれる光の輪。月の暈(かさ)。月の輪。月の光が、細かい氷の結晶からできている雲に反射・屈折して起こる。
肉体・・・肉から構成されている体。生きている人間の体。生身の体。
叫ぶ・号ぶ・・・1.何かを訴えるために、大きな声を出す。大声を発する。大声で言う。
2.世間に向かって強く主張する。強く訴える。
2.世間に向かって強く主張する。強く訴える。
刹那・・・1.仏教の時間の概念で最小の単位。ちょっとの間。きわめて短い時間。一瞬。指を人はじきする短い時間(=弾指[だんし]という)に65刹那あるという。 ⇔ 劫(こう・ごう)。
2.数の単位としては、弾指の10分の1。
2.数の単位としては、弾指の10分の1。
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治郎吉の影は、もう、水面の下にかくれて、ただ一すじ、波の影だけが、北岸の方へよれて行った。
吉川英治 / 治郎吉格子
岡本かの子 / 渾沌未分
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巨大な太陽が西に落ちて水平線がトマト・ソースのような赤に染まり、サンセット・クルーズの船が帆柱に灯をともし始めるまでそこに寝転んでいた。彼女は最後の一筋の光までを味わっていた。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
岩に激する清冽な流れが二筋に分かれる
獅子 文六 / てんやわんや amazon
両側が急な山の迫っている入江
遠藤周作「沈黙(新潮文庫)」に収録 amazon
群青色にはろばろと続いている大洋
菊池 寛 / 俊寛 amazon
海を渡る風が起こした細波が、時折、鏡のような水面に皺を寄せては走り抜けて行く
景山 民夫 / 遠い海から来たCOO amazon
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