（真っ暗で恐い）冗談抜きで恐いのだ。丸裸にされたような気がする。嫌な気分だ。暗い暗黒は暴力の粒子を僕のまわりに漂わせている。そして僕はそれがうみへびのように音もなくするすると近寄ってくるのを見ることさえできないのだ。救いようのない無力感が僕を支配している。体中の毛穴という毛穴が直に暗闇に曝されているような気がする。

すれ違う人の顔もはっきりとは見えない

それは恐ろしいほどの完璧な暗闇だった。 何ひとつとして形のあるものを識別することができないのだ。自分自身の体さえ見えないのだ。そこに何があるという気配さえかんじられないのだ。そこにあるものは黒色の虚無だけだ。

陰がさらに陰をつくる夜の闇

如何（いかん）ともすることのできない闇

白熱瓦斯の下に、真白に塗り立てた娘が、石膏の化物のように坐っていた

映画を観終わった観客たちが、無口に地下からわき出てくる。彼らは皆、日の光から疲労した目を守るようにうつむいて

ゼラチンの膜で覆われたような光沢

鋼鉄の硬さと茄子紺の艶やかさの溶け合った闇の輝き

診察室をのぞくことができた。先生も看護婦もいなかった。そこは放課後の理科室のように薄暗かった。