我々はホテルに帰って性交した。性交ということばが僕はとても好きだ。それは何かしら限定された形の可能性を連想させてくれる。

美代子の体を貫くように腰を振りながら

性器をこすり合わせる

倉地と葉子とは互い互いを楽しませそしてひき寄せるためにあらん限りの手段を試みた。葉子は自分の不可犯性（女が男に対して持ついちばん強大な蠱惑（こわく）物）のすべてまで惜しみなく投げ出して、自分を倉地の目に娼婦（しょうふ）以下のものに見せるとも悔いようとはしなくなった。二人（ふたり）は、はた目には酸鼻（さんび）だとさえ思わせるような肉欲の腐敗の末遠く、互いに淫楽（いんらく）の実（み）を互い互いから奪い合いながらずるずると壊（こわ）れこんで行く

（女が受動的なセックス）僕が抱くと彼女はそれに温かく応えてくれたけど、決して自分の方から要求したり、積極的に何かをしたりということはなかった。僕に抱かれているとき、キキは体の力を抜いて、とてもリラックスしてそれを楽しんでいるように僕には思えた。

小鳥のような肉体の戯（たわむ）れ

二人は無防備に笑い合ったり口づけをかわしたりして

仲良さそうにちょっとふざけてみたり

馬鹿馬鹿しかったり疲れて嫌になったりするはずのそんなじゃれ合いが、いくらでも出来た。

夫婦漫才のようなイチャコラ

すすり泣きに似た吐息が喉の奥から上がってくる。

抱擁してそのまま唇を重ねる

「お帰りなさい。」 「ただいま。」 　どんなにありふれた言葉でも、純が口にすると耳の奥までしみ込んでくるような気がした。

（雪の明かりが差し込む暗い室に裸の男性）彼の胸が闇の固まりになって目の前にあった。背中の方から雪の明かりが彼を包んでいた。ぼやけた光の中で、筋肉の輪郭が生々しく浮き上がっていた。

この、世界が空っぽになったような寥（さび）しさ、何をしても――路を歩いても、読んでいても――すべてはただ彼に会うまで、時間をつぶす方便だという感じ、空気まで妙に稀薄になったような息苦しさ。