夜の静けさを破る音

あたりの賑わしさを頭から叩き伏せるように力ずくの音楽が破裂している。

耳を 劈くほどの凄まじい音は、ここに届くまでの間に、距離がすっかり 手懐けていた。

ドドーンと地を震わせて爆音がとどろいた。電車の窓硝子が一どきにビリリとした。

白い冬の面紗（ヴェイル）を破って近くの邸からは鶴の啼き声が起こった。

（聴き入る、富樫雅彦と菊地雅章の美しいデュオのＣＤ）菊地のピアノだけで演奏される破格の〈All The Things You Are〉が始まったところで、しばらくその場から動きたくなくなった。 　時間が、ゆっくりと解体されてゆくようなテンポだった。旋律が、一滴ずつ、澄んだしずくとなってしたたり、静まり返った室内に、幾重にも波紋を広げていった。 　城戸は、音楽そのものというより、その音の予感と余韻との融け合いの中で息を潜めて、クリスマス・ツリーの電飾が、一定のパターンで変化してゆく様を眺めた。

雷鳴が窓ガラスを震わせた。

ひゅらり、ひゅらり、と横笛をふきだした。

耳栓をつけて湖の底に座っているような静かさ

脳天をトンカチで叩くような感じの音楽