（部屋の中に夕陽が差し込む）ベッドや寝椅子や、クロゼットなどが濃い影を作る。それらの影は時間の経過につれて段々と長くこちらの足許に伸びて来る。

掃除の行きとどいた朝の郵便局の光線は、海の底のように静かで、平和であった。

渡り廊下に射す光の加減で、日が空の高いところへ昇ろうとしているのが分かるが、日差しはどうしても店の奥にまでは届いてこない。

暗の中でかすかに蔀（しとみ）を開く音。それと共にうすい月の光がさす。

真赤に染まった櫨と桜の森が現れ、夕陽が洪水のようになだれこんだ。

磨り硝子の塡まった木のドア

洗濯機の軽快な音が部屋中に響いた。

ドアにノックの音がした。はじめに二回、そして呼吸ふたつぶんおいて三回。

カーテンをめくって、陽の光りを見上げた。

（シンクに置かれた食べ残しの皿）そこには、朝、夫が使った食器が怠惰に積み重なっていた。ガラスのデザート皿にコーヒーカップがしりもちをついて、それにミート皿がもたれている。その隙間にナイフとフォークとティースプーンが刺さっている。わたしは美術作品を眺めるように、しばらく流し台の前に立っている。 　半熟卵が一筋流れ出して、皿の縁に回虫のように張り付いている。コーヒーの飲み残しがセロリの切れ端を粘土色に染めている。ヨーグルトが、脳味噌のように固まっている。流し台は〝有機体〟にあふれている。

石段の石の色が、こまかく灰が降ったように見えるのは、木かげを洩れる弱日（よろび）の色だ。

曙の色が仄かに東の空を染める

静かな慰めるような秋の日光が樹木の間に差し込んで

もろもろの陰は深い瑠璃色（るりいろ）に、もろもろの明るみはうっとりした琥珀色（こはくいろ）の二つに統制されて来ると、道路側の瓦（かわら）屋根の一角がたちまち灼熱（しゃくねつ）して、紫白（しはく）の光芒（こうぼう）を撥開（はっかい）し、そこから縒（よ）り出す閃光のテープを谷窪のそれを望むものものに投げかけた。

曇っているせいか、昼間だというのに南側のマンションの窓の幾つかに灯りが点っている。