光の届かない海底の水が死んだように黒い

まっ白なマリンスノーがあたりに浮遊する

（海の底に）幾千、幾万もの黒いナマコが静かに横たわっている。寄り添うものあり、ねじ曲がるものあり、まるで不思議な植物のようにそこに息づいている。

クッションというなら全部クッションだ。 羽根布団（はねぶとん）というなら全部羽根布団だ。 だが、水の中は、溶（と）けて自由な もっといいもの――愛。 跳（は）ねて破れず、爪割（さ）いて 掻き毮（むし）らりょうか――愛。 それで海豚（イルカ）は眼を細めている。 一生、陸に上らぬ。 　これは希臘（ギリシア）の擬古狂詩（ぎこきょうし）の断片をざっと飜訳したものだそうだ。それと同じような意味を父の敬蔵（けいぞう）は老荘（ろうそう）の思想から採って、「渾沌未分の境涯（きょうがい）」だといつも小初に説明していた。

沖縄の海底は月夜の浜辺のような微光がただよっている

山陰の山は、瀬戸内の白く霞んだ淡々しさとは違い、深い色を隠しもっていた

遠い水は瑠璃色（るりいろ）にのして、表面はにこ毛が密生しているように白っぽくさえ見える。

小川の岸が絶えず日光の波に洗われている

静かな波のぽちゃぽちゃと舷側を叩（たた）く音

（道頓堀川）墨汁のような色をたたえてねっとりと 淀む巨大な泥溝