見渡す限りに実った稲の穂が不規則な朝の風に奇妙な波の線を描き出していた。

（盛夏の稲）二尺程に延びて密生した稲が風もないのに強い熱と光との中に揺れて見えた。 「ああ稲の緑が煮えている」彼は 亢奮 しながら思った。 　実際稲の色は濃かった。強い熱と光と、それを 真正面 に受け、押合い、へし合い歓喜の声をあげているのが、謙作の気持には余りに直接に来た。

稲の絨毯が燃え上がるように輝き、そのうえをトンボの群れが不規則な軌跡を描いて飛行する

野には稲が黄色く実る

黄色く熟した田

いつ来たのだろう、夏との袂別（べいべつ）をいつしたとも見えないのに秋をひそかに巴里は迎えいれて、むしろ人達を惑（まど）わせる。

秋日和と名のつくほどの上天気

根方に松葉が落ちていた。その上を蟻（あり）が清らかに匍（は）っていた。

十月の空はすとんと気が抜けてしまいそうに高く青く広がって

都会の花瓶にも可憐なコスモスがほころびる頃