早春の陽を浴びて水がぬるむ

朝晩の凍（し）み方はたいして冬と変わりはない。ぬれた金物がべたべたと糊（のり）のように指先に粘りつく事は珍しくない。けれども日が高くなると、さすがにどこか寒さにひびがいる。

金魚売りが天秤棒（てんびんぼう）をになって、無理にも春をよび覚（さ）ますような売り声を立てる季節にはなった

しのびやかに軽くくすぐるように、一日ずつ近づいてくる春

春がどこともなく地上に揺れ立つ

春も闌けて寝間の闇も暖かい

その名さながらの屏風山（びょうぶやま）が若葉で花よりも美しく装われて霞（かす）んでいた。

洋品店の四月の窓飾りは、金と銀と桜の花で目がくらむなり。

六月半ばだというのに暑い日が続いていた。夏の日のような青嵐が街路樹の枝を揺らし、白いシャツの胸元をはためかせた。秋から冬にかけて曇天しか見せない空もいまは力強く晴れ渡り、直線の陽射しを舗道やビルに注いでいる。

札幌の六月は素敵な季節だった。雪解けはずっと前に終わり、ほんの数ヶ月前には固く凍えていた大地は今は黒々として、柔らかな生命の息吹をたたえていた。木々は青い葉をいっぱいに茂らせ、清潔で優しい風がその葉を揺らせていた。空は高く透き通り、雲は輪郭をくっきりとさせていた。

溶け残った雪を柔らかい日差しが包んで、街の方々できらきらと美しい光が放たれている午後

何もかも凍りつくような厳冬の冬山

三間半の南向の椽側に冬の日脚が早く傾いて木枯（こがらし）の吹かない日はほとんど稀（まれ）になってから吾輩の昼寝の時間も狭（せば）められたような気がする。

二月半ばとは信じられないほど肌触りの柔らかな空気が流れ入ってくる

冬は空気が乾いているから、富士山はくっきりと美しい姿を現わしている。