（これだ） 　と感じた、小さな宿へ泊ったのである。 　こうしたときの私の眼に、ほとんど狂いはなく、快適なもてなしをうける。旅館のみならず、人の住む家というのは、住む人のこころが歴然とあらわれてしまっていること恐ろしいものだ。外観を見ただけで、およその見当がついてしまうものである。

二階家そのものは二十年以上はたっているらしい木造の古家だが、玄関を新建材で張り出し、二階も下もサッシの窓がとりつけられ、北側にひと間増築していた。丁寧に住んでいるという印象であった。

別荘風の住宅

私たちの田舎ずまいは、一銭銅貨の表と裏とのようにいろんな家畜小屋と背中合わせだった。

（漁師の家）竹串にさされた生鰯が、むしろの上にならんで、雨あがりの薄陽がその上に銀を散らしている。

窓からの風景はいつの夜も渝（かわ）らなかった。喬にはどの夜もみな一つに思える。

まるでとっておきの折り紙を丁寧に並べたみたいに、大小のビル群がずらりと並んでいる。その一つひとつには微細で精巧な窓が編み目のように刻印されていて、ある窓は青を映し、ある窓は緑に染まり、ある窓は朝日をきらきらと反射している。遠くに小さく見える赤い尖塔や、どこかクジラを思わせるような丸みを持った銀色のビル、一枚の黒曜石から切り取ったみたいな黒く輝くビル

日の当たったビルの上辺りだけが鈍く輝いていた

雲一つなく暮れて行く空を刺していた黒い鉄骨のエッフェル塔は余りににべも無い。

（青空の）その蒼の下で村はのどかに息づいているようであった。