空にはいくつか小さな雲が浮かんでいたが、それらはまるで中世の銅版画の背景に描きこまれた雲のように鮮明で簡潔なかたちをとっていた。目につく何もかもが見事にくっきりとしているせいで、僕自身の肉体がいかにも茫洋としてとりとめのない存在であるように感じられた。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 ページ位置:46% 作品を確認(amazon)
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雲
無風・風がない
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前後の文章を含んだ引用
......た影は僕の白いシャツの上に素速く這って、それからまたもとの地表に戻った。 あたりには物音ひとつなく、草の葉が日の光を浴びて呼吸する音までが聞こえてきそうだった。空にはいくつか小さな雲が浮かんでいたが、それらはまるで中世の銅版画の背景に描きこまれた雲のように鮮明で簡潔なかたちをとっていた。目につく何もかもが見事にくっきりとしているせいで、僕自身の肉体がいかにも茫洋としてとりとめのない存在であるように感じられた。そしてひどく暑い。 僕はTシャツに薄手の綿のズボンにテニス・シューズという格好だったが、それでも日なたを長く歩いていると、わきの下や胸のくぼみにじっとりと汗がに......
単語の意味
取り留めの無い(とりとめのない)
肉体(にくたい)
取り留めの無い・・・目標やまとまりがない。特に重要でない。
肉体・・・肉から構成されている体。生きている人間の体。生身の体。
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雲の表現・描写・類語(空・中空のカテゴリ)の一覧 ランダム5
空には刷毛で引いたような細い雲が幾筋か流れ
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
渓谷の青い岩のような雲が月の周りを囲む
黒岩 重吾 / 背徳のメス amazon
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無風・風がないの表現・描写・類語(風のカテゴリ)の一覧 ランダム5
風はなく、足許のすすきはそよとも揺れなかった。
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 amazon
風なんて本当にひとかけらも吹いてはいなかった
村上春樹 / ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
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「空・中空」カテゴリからランダム5
様々なかたちと大きさの雲が空を素速く吹き流されていく。雲は白く緊密で、輪郭がくっきりとして、雪解けの川を海に向けて運ばれていく堅い氷塊のようにも見える。いずこからともなく現れて、いずこへともなく消えていくそんな夜の雲を見ていると、自分が世界の果てに近い場所に運ばれてきたような感覚があった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
月はまるで青い氷のなかの刃のように澄み出ていた。
川端 康成 / 雪国 amazon
地平線の上に楕円形の真赤な太陽が出ている。上下から押しつぶされ、卵のような恰好だ。
火野 葦平 / 麦と兵隊「土と兵隊・麦と兵隊 (新潮文庫)」に収録 amazon
まだ光を含まない繊月(せんげつ)が、透きとおるような白さで浮いている
永井 路子 / うたかたの amazon
(月は)反対側の嶺線に隠れた。そして光だけ、長く対岸に残っていた。
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
「風」カテゴリからランダム5
夜風の吹き渡る往来は多少胃の痛みの薄らいだ僕の神経を丈夫にした。
芥川竜之介 / 歯車
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