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川のこちら岸には高い欅 の樹が葉を茂らせている。喬 は風に戦 いでいるその高い梢 に心は惹 かれた。ややしばらく凝視 っているうちに、彼の心の裡のなにかがその梢に棲 り、高い気流のなかで小さい葉と共に揺れ青い枝と共に撓 んでいるのが感じられた。 「ああこの気持」と喬は思った。「視 ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分あるいは全部がそれに乗り移ることなのだ」《…略…》病鬱や生活の苦渋が鎮められ、ある距 りをおいて眺められるものとなる心の不思議が、ここの高い欅の梢にも感じられるのだった。
梶井基次郎 / ある心の風景 ページ位置:78% 作品を確認(青空文庫)
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自己投影
雑念・思いが頭に浮かぶ
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前後の文章を含んだ引用
......ガックリ一つ転ると、また運ばれて行った。 二人の子供に一匹の犬が川上の方へ歩いて行く。犬は戻って、ちょっとその新聞紙を嗅 いで見、また子供のあとへついて行った。 川のこちら岸には高い欅 の樹が葉を茂らせている。喬 は風に戦 いでいるその高い梢 に心は惹 かれた。ややしばらく凝視 っているうちに、彼の心の裡のなにかがその梢に棲 り、高い気流のなかで小さい葉と共に揺れ青い枝と共に撓 んでいるのが感じられた。 「ああこの気持」と喬は思った。「視 ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分あるいは全部がそれに乗り移ることなのだ」 喬はそんなことを思った。毎夜のように彼の坐る窓辺、その誘惑――病鬱や生活の苦渋が鎮められ、ある距 りをおいて眺められるものとなる心の不思議が、ここの高い欅の梢にも感じられるのだった。 「街では自分は苦しい」 北には加茂の森が赤い鳥居を点じていた。その上に遠い山々は累 って見える。比叡山――それを背景にして、紡績工場の煙突が煙を立登らせていた。赤......
単語の意味
苦渋(くじゅう)
凝視(ぎょうし)
撓む(たわむ)
撓る・撓う(しなる・しなう)
暫く・姑く・須臾(しばらく)
苦渋・・・にがくて渋いこと。苦しんで悩むこと。「苦渋の決断」「苦渋を味わう」
凝視・・・目を凝らして一点を見つけること。目を大きく見開いてじっと見つめること。
撓む・・・まっすぐのものが力を加えられて、そり曲がった状態になる。
撓る・撓う・・・1.弾力があるため、折れずに、そり曲がった状態になる。撓む(たわむ)。
2.頼りなさそうにナヨナヨする。自らを支える力もなさそうに弱々しくする。
2.頼りなさそうにナヨナヨする。自らを支える力もなさそうに弱々しくする。
暫く・姑く・須臾・・・1.長いと感じるほどではないが、すぐともいえないほどの時間。ちょっとの間。一時的。
2.ちょっと待った!
2.ちょっと待った!
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あれは俺の空想が立たせた人影だ。俺と同じ欲望で崖の上へ立つようになった俺の二重人格だ。
梶井基次郎 / ある崖上の感情
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そういったことすべてが、交互にあらわれ、何の脈絡もなく、泡のように浮かんでは消えていく。
小池真理子「愛するということ (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
心頭には老母と妻とのことが浮かんだ。
森鴎外 / 阿部一族
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熟考するような顔
宮本百合子 / 伸子
ただ知らないと右手を左右にふってみせる
野間 宏「真空地帯(新潮文庫)」に収録 amazon
不安な想像を水母(くらげ)の傘みたいにふくらませている
古井 由吉 / 弟「古井由吉自撰作品 2 水/櫛の火 (古井由吉自撰作品【全8巻】)」に収録 amazon
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咽喉の焼けつくような渇き
遠藤周作「沈黙(新潮文庫)」に収録 amazon
考えるのはよそう。自然を受け入れなくては。何もかも物事は自然に流れていくものなのだ。彼は自分を修行僧のように変えることを決意した。
山田詠美「新装版 ハーレムワールド (講談社文庫)」に収録 amazon
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