僕は庭のブロック屛をのりこえて「路地」に下りた。 「路地」とは言っても、それは本来的な意味での路地ではない。正直なところ、それは 何とも 呼びようのない代物なのだ。正確に言えば道ですらない。道というのは入口と出口があって、そこを辿っていけば然るべき場所に行きつける通路のことだ。 しかし「路地」には入口も出口もなく、それを辿ったところでブロック屛か鉄条網にぶつかるだけのことだ。それは袋小路でさえない。少くとも袋小路には入口というものがあるからだ。近所の人々はその小径をただ便宜的に「路地」と呼んでいるだけの話なのだ。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 ページ位置:40% 作品を確認(amazon)
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路地・小道
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前後の文章を含んだ引用
......た。氷河にとじこめられてしまった五万年前の石のような深く冷たい沈黙だった。十五回の電話のベルが僕のまわりの空気の質をすっかり変えてしまったのだ。 二時の少し前に僕は庭のブロック屛をのりこえて「路地」に下りた。「路地」とは言っても、それは本来的な意味での路地ではない。正直なところ、それは何とも呼びようのない代物なのだ。正確に言えば道ですらない。道というのは入口と出口があって、そこを辿っていけば然るべき場所に行きつける通路のことだ。 しかし「路地」には入口も出口もなく、それを辿ったところでブロック屛か鉄条網にぶつかるだけのことだ。それは袋小路でさえない。少くとも袋小路には入口というものがあるからだ。近所の人々はその小径をただ便宜的に「路地」と呼んでいるだけの話なのだ。「路地」は家々の裏庭のあいだを縫うようにして約二百メートルばかりつづいていた。道幅は一メートルと少しというところだが、垣根がせりだしていたり、いろんなものが路上......
単語の意味
代物(しろもの)
代物・・・物や人を、評価を交えて言う言葉。価値のあるものや、取るに足らないもの。
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路地・小道の表現・描写・類語(道・道路のカテゴリ)の一覧 ランダム5
普通の通行人のための路ではないような隘路
梶井基次郎 / ある崖上の感情
闇市 跡のような暗い路地
又吉直樹「劇場(新潮文庫)」に収録 amazon
道幅は一メートルと少しというところだが、垣根がせりだしていたり、いろんなものが路上に置かれていたりするせいで、体を横に向けないことには通り抜けられないところも何ヵ所かある。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
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「道・道路」カテゴリからランダム5
野良猫や野良犬が、白いほこりっぽい道をかけていった。
石井 好子「東京の空の下オムレツのにおいは流れる (河出文庫)」に収録 amazon
この交差点はとてもグロテスクな形をしていた。まるで巨人が造った広い道路と小人たちが造った細い路地が交わっているように見えるのだ。 たとえば広い国道のほうから走ってくると、直角に右へ曲がっているL字型の道にしか見えない。しかし実際はL字型カーブと見えた先には細い路地が伸びており、国道と平行に走る水路にかかる小さな橋がある。そしてこの水路が、昭和四十六年に埋め立てが完了し、沖合の島が陸続きになるまでの海岸線だったのだ。 陸続きになった島には造船所の巨大なドックがある。これが巨人の街だ。そして海岸線を奪われた以前の漁村には、未だに細い路地が張り巡らされている。
吉田修一「悪人」に収録 amazon
夏目漱石 / 吾輩は猫である
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