夕に近づいて弱くなった光が、部屋の四隅のしみのついた壁紙の上に溜っている。そして部屋のなかのすべてのものにほのぐらい影がついている。

ひとりのときに部屋を貫くように差し込んでくる太陽は嫌いだ。ひとりのあたしに、あたしはひとりだとまんまと思わせるからだ。窓から外を見たりなんかすると、アスファルトでさえ宝石でも紛れ込ませているかのようにきらきらしているように見える。太陽は、ひとりの自分を嫌いになるようにしむけてくる。

烈しい秋の日が、六尺の障子（しょうじ）へ一面にあたって

病棟は 陽 当たりが悪く昼間でも電灯がついている。

隣室に電燈をつけてあるので、薄明りが境の欄間から天井にだけさしていた。

（小綺麗なイタリア料理の店）とろりとした眠気が店内に充ちている。テーブルごとに黄色く燃えるキャンドルが置かれていて、欲望に充実したまなざしで互いを見つめ合う何組かの男女の横顔を照らしている。

窓から強い朝日に押し込まれて来たように、新吉の眼を痛いほど横暴に刺戟する。

病室の中央には、十分に乾燥したシーツでたっぷりと包まれたベッドがあった。それは大きな白い動物がうずくまったように重そうだった。クリーム色の壁紙でおおわれた病室で、ベッドの白さがくっきりと浮かび上がっていた。いろいろなものが、その白く盛り上がったベッドを中心に配置されていた。普通の家の寝室やホテルのベッドと違って、それはもっと意味深いもののように思えた。ベッドの周りに病室があるような感じがした。

顔色が黄色く見えるほどその日の空も部屋の中も寂（さび）れていた。

（ベランダ）不透明なプラスチックの目隠し板と金属の手すり

畳に差し込んでいる街灯が、古い畳の上で点滅する蛍光灯と混じっている。

雲があんなに、白や青い色をして流れている。ほんとにいい仕事をしなくちゃいけないと思う。

午後の強い日差しが幻想的なしぶきのようにリノリウムの床に降り注いでいた。

ガレージの扉をあけると、中は広々として、板のすきまからさしこんだ日の光が黒い土の上に何本かの平行線をくっきりと描きだしていた。

鶴川と私とのあいだには、夏のはげしい直射日光がある。鶴川の若い顔は脂に照りかがやき、光りの中に睫を一本一本金いろに燃え立たせ、鼻孔をむしむしする熱気にひろげて、私の言葉の終るのを待っている。