手術室は思っていたよりもずっと素っ気ない小部屋で、壁も天井も床も機材も全部セメント色だ。

「再手術はそんなに厄介ですか？」 　桑木は孝子が口を出す前に云った。 「ええ、はっきり申上げて簡単ではないようです。ちょうど着物を縫うのでも、新しいのを仕立てるよりも、古いのを縫いかえすほうが面倒で手間をとるのと似ていますわ」

（手術室の）スイッチを 捻ると、無影燈の青白い光が天井や四方の壁にまぶしく反射した。

無影燈のまぶしい青白い光も、海草のようにゆっくり動いている白い手術着をきた人間たちの姿も

手術室は九階にあって、専用のエレベーターでしか降りられないようになっていた。エレベーターの扉が開いた瞬間、そこには病棟や研究棟とはどこか違った寒々しい雰囲気が広がっていた。まずエレベーターホールには何もない。ソファーも公衆電話もベンジャミンの鉢植もない。頼りないくらいにすっきりしている。そして暗い。ホールの隅は薄い闇にぼやけている。電灯の半分はスイッチを切られている。

開演直前の空気をさらに盛り上げるべく流れ始めたオーバーチュア、その重低音にぐいぐいと背中を押されているような気分だ。何度経験しても、この瞬間の興奮は鮮度が落ちない。

また一つ爆発音が轟いて、また一つ轟いた

いい感じで観光スポットが点在する都市

まだ心はサイパンの海のそばをさまよっている

血腥（ちなまぐさ）い殺人仕事

モグリかと思うくらいあじけない治療院

病院の待合室をサロン代わりのする老人たち

クーラーの効いたロビーは外来の患者でごった返している

病院に到着した救急車のハッチが勢いよく開く。弾けるように救急車の外に転がり出る救急隊員。車内に残った救急隊員との連携により、手際よく担架が降ろされる。

暗い洞窟のような重症病室