（校庭で）一つ大きな風が吹いて、くすのきの葉と花壇の草とサッカーゴールの網が揺れた。

ひんやりした風が歓楽街の臭気を濁らせたり消したりしている。

（ハワイの風）ホテルの部屋のベランダから顔を出していると、うっとりするような風が吹いていて、家に帰ってからハワイのこと思い出すと、いつもあの風に甘い匂いがついていたように思うの。《…略…》家に帰るといつだって思い出すのは蜂蜜のようなこの甘い風の匂いなのだ。

風にさからいながら、子供の走るかっこうが、海老のように見える。

ビニールの買い物袋があてもなく風に舞っている。

（蝶の標本を燃やす）蝶を箱から出して、庭で火をつけた。メラメラと紙のように焼けていく羽から銀色の粉が飛び散った。それは風にとばされて消えてしまった。

風が吹いて、水面がちらちら揺れた。彼女の出口のない静けさに答えたみたいに。

（湖は）風当りが激しくて海のように菱波（ひしなみ）が立ち、

雨気をふくんだ叩きつけるような重たい風が崖の上から吹きおろしていた。

そよ、と吹いた風の行き先に目をやると、眼下の糸守湖がいかにも無関心そうに平和に凪いでいた。