靄（もや）が下りていた。何時も厳しく機械的に組合わさっている通風パイプ、煙筒（チェムニー）、ウインチの腕、吊（つ）り下がっている川崎船、デッキの手すり、などが、薄ぼんやり輪廓をぼかして、今までにない親しみをもって見えていた。柔かい、生ぬるい空気が、頬（ほお）を撫（な）でて流れる。

硬い粉のような冷たい霧

牛乳のような色の寒い夕靄（ゆうもや）

その夜は、集落に霧がまだ薄く凝っていて、田んぼに蛍は飛んでいなかった。

霧にぬれ透（とお）った登山服や毛布なども並みたいていの重さではありません。

夕靄（ゆうもや）が屋根に下がって、家々は頭を截（き）りとられたごとく看（み）えた

生毛のように柔く短く截れて降る春雨

絵の具のような灰色の霧が視界を閉ざす

それほど激しい降りではないが、おそろしく執拗な性質を持った雨だった。前日の昼過ぎに降り始めてから一度も降り止んでいない。そろそろ降り止みそうかなと思ったところで、また思い出したように雨脚が強くなる。

秋の長雨を思わせるような陰気な降り方の雨