出あうかぎりの男と女とが何がなしにひき着けられて、離れる事ができなくなる、そんな磁力のような力を持っている

母が灯台としてあまりにこうこうと明るすぎるから、通りかかる船はみな混乱し、さまざまに奇妙な運命が寄ってきてしまう

彼がいつも知りたいと感じるのは、この女の不思議な雰囲気が、どんなふうに生まれるのかということだった。 寝椅子カウチ でうたた寝をしている時など、彼は彼女の閉じられた目や長く伸ばされた爪や太股の上までまくれ上がったスカートの 皺 さえも凝視した。けれど、何の答も出て来はしない。彼女は、ただそこに存在していて、その存在しているということだけで、すべてを説得していた。

居心地が悪かった。彼女のアンバランスな存在感は、人を落ち着かなくさせる。そしてそこが美点で、別れると何か言い残した気がして、また会いたくなる。

彼は、まるで流行に反抗でもするように、猶太（ユダヤ）人の爺がかぶりそうな古びた山高帽を放さない。その山高のような特別さ、淋しいような満ち足りていないような何かが伸子の心をひくのであった。彼がもう若くないのに貧乏しつつそのような研究をしているらしいのが同情を誘うのであろうか。或は、自分が生活力の充実を感じて活々した女だから、逆に暗い彼の存在に興味を覚えるだけなのであろうか。

私は手すりにかかっている彼の手を取った。彼は強く私の手を握り返した。知っている、乾いた暖かさだった。

後ろ姿が百合に似ていた。

入れこみの店内で、二人とも大声に語り合う。他人が見たら、喧嘩をしているように見えるそうだが、笑い声がきこえるので、 「そうではないらしい」 　と、わかる

白刃を構えたような凄み

彼女には、そういうことが持つ、しんとした淋しさがしみ込んでいた。