黴びたような色あいの半月が浮かんでいる。

間違いない。月は二個ある。　ひとつは昔からずっとあるもともとの月であり、もうひとつはずっと小振りな緑色の月だった。それは本来の月よりかたちがいびつで、明るさも劣っていた。行きがかりで押しつけられた、だれにも歓迎されない、貧しく醜い遠縁の子供のように見えた。

彼女は夕月に似ている。淡い青のグラデーションにいまにも消えそうなあの白光。

通り過ぎたばかりの雲の縁が、月の明かりに淡く染められている。長いスカートの裾をうっかり染料に浸けてしまったみたいに。

雲がしきりに飛んだ。そのうち洗ったような月が出た。

ながれ星がいっぱい夕立のようにふりだした

空が恐ろしく青く、吸い込まれるように遠く、まるでよくできたブルーのゼリーのように、触れることができそうなきちんとしたグラデーションで天上からずっと、さえぎるものの何もない地平線まで続いていた。乾いた空気、乾いた地面。ぽつりぽつりとある建物がくっきりとその広大な眺めに模型のように見えた。

空は眼の中を染めるほど青く、キラキラと晴れ渡り

何もかも乾ききっていて、じわりじわり人の体の水分を吸いとるようだ

庭じゅうに月がさしている。その中を歩いたら髪に燦く液体がねばりつきもしそうな光波につつまれ、円い躑躅（つつじ）や檜葉（ひば）がくっきりと黒い影をしたがえて鎮まりかえっている。樹や芝生が夢幻的に、生あるもののように思えた。この月夜には、人間の霊魂も遠くたやすく伝わりそうだ。