正直に語ることはひどくむずかしい。僕が正直になろうとすればするほど、正確な言葉は闇の奥深くへと沈みこんでいく。

「どうかな、……」と言ったきり、うまく先を続けることが出来なかった。

自分があまりにも複雑な気持ちなのに気づいた。だから過去の知識のなかからでは、この気持ちを表すことばが総動員しても何も出てきやしなかった。そのくらい、説明できない感情を抱いた。

佃は話下手であった。自分から話題を展開させる性質（たち）の男でなかった。

語り口がうまいとは言えず、まわりくどい表現が多いのでうんざりする

どうしてこんな事態に陥ったと思う」 　重藤は言葉に詰まった。思考が空回りして、汗が引いたはずの全身が再び熱くなる。

自分が早く話せないことに苛立つ時があった。頭の中には膨大なイメージが渦巻いているのに、それを取り出そうとすると言葉は液体のように崩れ落ちて捉まえることが出来ない。《…略…》一つ言葉が耳に入ると、そこから派生した別個の流れが生まれ、頭の中でいくつものイメージが交錯して、どこから手をつければいいのかわからなくなるのだ。

どう切りだそうかな、と少し考えこんでいた。

ずっとたまっていたほこりをぽろりと払うように言葉を吐く

声が糸のように絡まりあう