彼は、まるで流行に反抗でもするように、猶太 人の爺がかぶりそうな古びた山高帽を放さない。その山高のような特別さ、淋しいような満ち足りていないような何かが伸子の心をひくのであった。彼がもう若くないのに貧乏しつつそのような研究をしているらしいのが同情を誘うのであろうか。或は、自分が生活力の充実を感じて活々した女だから、逆に暗い彼の存在に興味を覚えるだけなのであろうか。
宮本百合子 / 伸子 ページ位置:6% 作品を確認(青空文庫)
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......あいても、佃に会うまでは持たなかった。佃の専門の研究について種々新しい話を聞くのは面白いのだが――伸子は考えた。彼はなぜああ特別な印象をひとに与えるのであろう。彼は、まるで流行に反抗でもするように、猶太 人の爺がかぶりそうな古びた山高帽を放さない。その山高のような特別さ、淋しいような満ち足りていないような何かが伸子の心をひくのであった。彼がもう若くないのに貧乏しつつそのような研究をしているらしいのが同情を誘うのであろうか。或は、自分が生活力の充実を感じて活々した女だから、逆に暗い彼の存在に興味を覚えるだけなのであろうか。――伸子は、くるりと長椅子の上で腹這いになり考えつづけた。 二三日おいて、佃は職業紹介所を調べた報告をもたらして来た。 南波武二の消息は何処でも得られなかった......
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母が灯台としてあまりにこうこうと明るすぎるから、通りかかる船はみな混乱し、さまざまに奇妙な運命が寄ってきてしまう
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
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恋愛は常にこのように動揺や不安や悲しさの感情を伴うものなのであろうか?
宮本百合子 / 伸子
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蒔野は、自分の中にある、洋子に愛されたいという感情を、今はもう疑わなかった。胸の奥に、白昼のように 耿 々 と光が灯っていて、その眩しさをうまくやり過ごすことが出来なかった。
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 amazon
満州の寒気にやられた正介は、肉体のそこまで萎縮して、冷凍魚なみの不能者(インポテンツ)になっていたのだ。
木山 捷平 / 大陸の細道 amazon
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クラスの一員としてはもっとも影が薄く、噂話はもちろん、公式情報も、最後に回ってくるようなポジション
伊坂 幸太郎 / アイネクライネナハトムジーク amazon
自分の家から出かけるときのような気安げな後ろ姿
石川 達三 / 花のない季節 amazon
(人工呼吸器)規則的に胸を上下させ、静かに息をし続けていた。プスー、プスーという人工呼吸器の音が止むことなくICUの中に響いていた。
瀬名 秀明 / パラサイト・イヴ amazon
同じように静まり返っていても、どっかに人が隠れている部屋と無人の部屋では空気がちがうじゃないですか。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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