私はがまん強く笑って来ました。

団体的な人間じゃない

自分らの生活が予定通りはじまっているというわけだが――伸子は、しかし、何だかその生活に、自分を馴らしてしまうことができずにいるのであった。例えばある一つの晩餐会がここにある。料理は勿論、金縁の献立通りに燕尾服の給仕によって運ばれている。招かれぬ客もいないし、主賓が欠けているわけでもない。乾盃から卓上演説まで、すべて遺漏なくプログラム通り運ばれている。しかも、始めから終りまでその席に連なり、プログラムの予定通りの進行の証人となっているうち、その会合全体のうちに、自分が何の趣味も意味も感ぜず、突然変な不安にうながされて周囲を眺めまわすような場合がある。はたの誰一人、自分の感じるような屈託は持っていないと云う発見で、彼は自分を慰め得るであろうか。逆に、ますます自分のその場にそぐわない感じを強めるのであろう。 　伸子もそれなのであった。

女の口から「死」という言葉がはじめて出て、女も人間としての営みに疲れ切っていたようでした

感情の表現が不器用

心を病んで、自殺のように死んだ。

気の強い人ならきっと自殺をしたのだけれど、温和しい人だけにそれも出来なかったのだ。

呼び鈴を押しても返事がなく、不審を抱いた二人は鍵のかかっていなかった玄関から家に上がったところ、居間で倒れている清三を発見したのだった。そばのテーブルには、遺書とともに、《ニッカリンＴ》というラベルの貼られた瓶が転がっていたという。それが果樹などに用いられる農薬で、数年前に製造・販売禁止になった劇薬だということを重藤も知っていた。

自殺ってやつは、あとに残る者へ自分の中身をそっくり預けて、脱殼になることじやないか。

嘱託殺人

明日実は多分、人間って存在に興味がないんだと思う。深い関係を築くっていう前提がないから、逆に、誰にでも親切にできる。近寄ってきた人間は受け入れる。差し出されたものは受け取る。

食い道楽で、自分で買い出しにゆくのを趣味とし、おいしい料理をつくって一人でしみじみと味わって食べたりしている。

変態的な性格で嫌がらせたりしながらも、時々探るような視線を注いでくる

勇猛で鬼のように頼りがのある将軍

こんな事態だというのに、飄々としていてなんとも頼りない印象

静かに枯るるがごとく、ひそかに平和に自己の生涯を終える

この世界にはもう中野あゆみという人間は存在しない。その肉も血も失われてしまった。彼女は書類と記憶の世界にしかいない。

蜂は少し歩いて転び、また歩いて倒れた。季節の移るように自然と亡びてゆく、静かな死

朝露の消えるようなはかない臨終

沸々とたぎるような、黒い炎をあげてつっ走っていくような、思惟と形象と生命の激しい流れ