それが医者が僕に告げた診断だった。余命は長くて半年、ともすれば一週間すら怪しいという。放射線治療、抗ガン剤治療、終末期医療、さまざまな選択肢を医者が提示する。けれども、まったく耳に入らない。 　小さい頃、夏休みはプールに通っていた。青く冷たいプールに飛び込む。ざばん。ぶくぶく。体が沈む。 「ちゃんと準備運動しなさい」 　母さんの声がする。だが水の中でその声は、くぐもってよく聞こえない。すっかり忘れていた「音の記憶」がよみがえってくる。

声量は小さくないが、祖父に向けて言いさえしなければ祖父には聞こえない。祖父の耳が単一指向性マイクみたいになったのは聴力の衰えではなく、言語処理能力の衰えによるもののようだった。

言葉がぶんぶん飛ぶ虻の羽音のように、近くなったり遠ざかったりする

血色の悪いむくんだ手

白髪、白髯（はくぜん）の神々しい老人

枯れ木の精のように

見開けばまだ冴え冴えした黒目を持った老婆

骨と皮ばかり、という形容は珍しくないが、栄養分を取れば、またもとに太るという場合の痩せ方とは違って、いくら食べても栄養分が筋肉の方にまわらなくなった高齢者の痩せ方

老いてますます盛んなエロジジイ

葉っぱが全部落ちた枯れ木のような老人

歯のないお婆さんはきんちゃくをしぼったような口をして

小さな猿のような年寄り

（老化）ある年齢を過ぎると、人生というのはものを失っていく連続的な過程に過ぎなくなってしまいます。《…略…》肉体的な能力、希望や夢や理想、確信や意味、あるいは愛する人々、そんなものがひとつまたひとつ、一人また一人と、あなたのもとから消え去っていきます。《…略…》あなたはもうそろそろ三十歳になる。これから少しずつ、人生のそういう黄昏｛たそが｝れた領域に脚を踏み入れようとしておられる。それが、ああ、つまりは年をとっていくということです。

言葉がぶんぶん飛ぶ虻の羽音のように、近くなったり遠ざかったりする

耳たぶは美しく火照っている

小さなかたつむりのような女の子の耳

特徴の左右に大きく張った耳

ぎくりとして耳元まで赤くなる