「あれって北村、覚えてる？　半月くらい前の、ボウリング」押しボタン式の信号前で立ち止まった時に、東堂が口を開いた。　それを引き金に、僕の頭は、螺子を捻られたように回転をはじめ、記憶を過去へ過去へと逆回しにする。該当の場面を探り当てたところで、再生をする。「仙台ボウリング」という看板と、むくれた西嶋の顔が映る。

（学生時代を思い出すことは、）彼の人生におけるひとつの転換点を再体験することでもあった。

自分の中にある古い記憶を整理して順番に並べると、一番最初の記憶が一番鮮やかなフィルムで焼き付けられていることに気づく。

回想を影のごとく脳裡に引く

あの時のシーンが脳内でカラーで再生される

（記憶は）まるで遠くでゆらめく蜃気楼のようにつかみ所がない

治郎吉との話をけろりと、忘れッ放して

頭の中の記憶を確かめるようにちょっと間をおいてから、ゆっくりと答える

女の羽織に描かれている水仙らしき小さな花の、曇り空の下に淡く浮きあがった黄色い居並びが、千代の心にふいに 沁み入ってきた。

（名前を聞いて）すぐに名が浮かんだ。教官。書道家。温厚。生真面目。彼に関する断片的な情報と印象が矢のように脳裏を駆け抜けた。