（気配がない）息をひそめ、薄い影のように近寄る

（隣室の音に）耳をそばだてた。柔く床に倒れるサユリの肌やそれを押さえつけるスタンの骨のきしみの気配を、扉を一枚隔てた場所で、驚くほど正確に彼は感じ取った。

物陰から猫でも飛び出しそうな気配

（気配なく近づく人）気がつくと自分の五感が警戒する距離に迫ってきている。それが大胆なだけに、五感の警戒が一歩遅れてしまうのだ。そして慌てて警戒信号を発することになる。武内と接するときはそんな感覚が付きまとう。

がさがさと音がして、向こうから何かがやって来る気配がした。目を開けると繁みが揺れていた。

女に好かれる男というものはいつも心の奥に赤ん坊の皮膚のような柔らかいいたいたしいところを持っていて

小心者でうだつの上がらないヒラ社員

ダニみたいな男

運転手の年齢は三十代の前半というあたりだった。痩せて、色白で、細長い顔をしていた。用心深い草食動物のように見える。イースター島にある石像のように顎が前に突き出している。

黒い潤いのある瞳が嵐のように渦を巻く

列車は二両編成で、全部で十五人ばかりの乗客が乗っていた。そしてその全員が無関心と倦怠という太い絆でしっかりと結びつけられていた。

ピピピ、ピピピ、と河鹿（かじか）の啼く闇がなんとなく気をひき締める。

（人と接することが苦手な女の居留守）突然ドアチャイムが鳴る。瞬間、目の奥で何かがパリンと割れる気がする。まぶたを強く閉じてそのまま動かずにいる。強姦される女みたいに。神経をドアの外の気配に集中する。もう一度音が鳴り響く。コンクリートの上で苛々と足を踏みかえるような微かな音。それでもじっと息をひそめていると、やがて通路を歩き去るゴム底の靴音がして、隣のチャイムが同じように鳴らされる遠い音が聞こえる。とめていた息が漏れる。たぶん戸別訪問のセールスマンか何かだ。

店のざわめきが瞬間冷凍されたみたいにぴたりと止み

尋恵は身体を凍りつかせた。 　人の気配を部屋の中に感じた。 　まさか……そう思い、背中を撫でる空気の動きの正体を見極める。