（里帰り）国へ帰りましょう。……お母さんの胸の中へ走って帰りましょう

東京に疲れて帰ってきた私

尾道へ戻った事を後悔する。 　ふるさとは遠くにありて想うものなり。たとい異土（いど）の乞食（かたい）となろうともふるさとは再び帰り来る処に非ずの感を深くするなり。

（里帰り）ああ、何もかもに負けてしまった。東京を遠く離れて、青い海の上をつっぱしっていると、色々に交渉のあった男や女の顔が、一ツ一ツ白い雲の間からもやもやと覗いて来るようだ。

段々状になった 墓苑 には、見晴るかす先まで整然と墓石が立ち並んでいる。

墓石を前にして、しばらく突っ立っていた。黒光りした固そうな石には父の面影などなかった

（空襲で燃える画集）この画集もまた数知れぬ白い輝きを連ねて夜空を押し渡り襲うて来るＢ 29 の重い翼の嵐の下に、はね上る油玉と共に燃え、ただ曲りくねった鉛のガス管や、紫色に焦げてゆがんだ裸の鉄骨や熔けて薄緑に固まったガラスの塊などの間に、形もない灰となって残ったのである。この写真版の絵画集が、油脂焼夷弾の飛び火を浴びて、綴り合わされた絵の一枚一枚が、流れる黒い液体のような炎の中に焦げて剝れながら燃えて行った

爆撃機が、群がる鴉（からす）のように、執拗な襲いかかりで町を破壊する

緇い俎板（まないた）のような簡単な手術台