（面と向かって別れを告げられて）わたしは彼から視線をはずし、目の前に置かれたストロベリー果汁入りシャンパンの、優雅で細長いグラスを見つめた。まるで目と鼻の先にあるにもかかわらず、決して飲むことが許されない飲み物を眺めているようでもあった。頭の芯がぐらりと揺れ、遠近感が失われた。

翌週、僕らは別れた。電話で五分だけ話して別れた。まるで役所の手続きのように、事務的な会話だけで僕らは終わった。僕と彼女は千時間以上、電話で話してきた。千時間の電話で積み上げてきた関係を、僕らはたった五分の電話で終わらせてしまった。 　僕らは、電話ができることで、すぐつながる便利さを手に入れたが、それと引き換えに相手のことを考えたり想像したりする時間を失っていった。電話が僕らから、想いをためる時間を奪い、蒸発させていったのだ。

乙彦とは終わってしまった。 　終わった。長い時間をかけて。 　モザイクみたいに乱れてごちゃごちゃになった彼女の心は、死というひとつの言葉に向かって集約されつつあった。すごい勢いで、無音で。

愛なんかくそくらえだ、と言う柿村の言葉は、愛なくしては生きられない、という人間の反語なのだ。

（俊一の元彼女 → 十和子、今彼女 → カヨ）カヨが〈俊一〉と呼び捨てにするたびに、十和子のどこかが 蹂躙 されこわばっていく。

二人とも汗にまみれ、その汗を身体にぬりたくるように抱き合ってみたりした。

（性的妄想）わたしは自分がそのほっそりとして滑らかな身体に抱かれるところを想像しました。彼女と同じ部屋にいて、ベッドの中でそんなみだらな想像をしていると、だんだん自分がちがう場所に押し流されていくような気がしました。

ゲレンデが溶けるほど恋いしたい

命懸けの恋

女の唇を捕えた。