太陽がその反映を、赤い煙霧が漂うように直下の水に落とす

もう午前十時をまわっていて、相当高いところにある太陽がまるで美しいものみたいにこの街を照らしていた。

葉のない枝に飴（あめ）の如く滑かな日の光りをうけて、梢（こずゑ）にゐる鶺鴒（せきれい）の尾を動かすのさへ、鮮かに、それと、影を街道に落してゐる。

ジュジュが走ると、陽射しが弾けて鎖がきらきら光った。

身体の中までも射通すかと思うような明るい乾いた午後の日光は、気の付かぬうちにおのずと暮れ行き、時にはまるで燈（ともしび）の光のように黄色く見える事さえある。

渡り廊下に射す光の加減で、日が空の高いところへ昇ろうとしているのが分かるが、日差しはどうしても店の奥にまでは届いてこない。

朝日が眩しくて、眉間の辺りがこそばゆい。

朝の空を今まで蔽（おお）うていた綿のような初秋の雲は所々ほころびて、洗いすました青空がまばゆく切れ目切れ目に輝き出していた。青灰色によごれていた雲そのものすらが見違えるように白く軽くなって美しい笹縁（ささべり）をつけていた。海は目も綾（あや）な明暗をなして、単調な島影もさすがに頑固（がんこ）な沈黙ばかりを守りつづけてはいなかった。

もう少しカーテンを引き、月の明かりを更に部屋に送り込んだ。そしてその黒いかたまりの中から、もつれた糸をほぐすように、輪郭線をひとつひとつ見分けていった。それはひとりの人間の身体のようだった。

日はうららかに川面を射て、八畳の座敷は燃えるように照った。