貞世の眠るのと共に、なんともいえない無気味な死の脅かしが卒然として葉子を襲った。部屋 の中にはそこらじゅうに死の影が満ち満ちていた。目の前の氷水を入れたコップ一つも次の瞬間にはひとりでに倒れてこわれてしまいそうに見えた。物の影になって薄暗い部分は見る見る部屋じゅうに広がって、すべてを冷たく暗く包み終わるかとも疑われた。死の影は最も濃く貞世の目と口のまわりに集まっていた。そこには死が蛆 のようににょろにょろとうごめいているのが見えた。
※備考※ 危篤状態の貞世を病室で寝ずに看病する葉子の心理描写
有島武郎 / 或る女(後編) ページ位置:81% 作品を確認(青空文庫)
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瀕死・虫の息
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前後の文章を含んだ引用
......さん……遠くでピストルの音がしたようよ」 はっきりした声でこういったので、葉子が顔を近寄せて何かいおうとすると昏々 としてたわいもなくまた眠りにおちいるのだった。貞世の眠るのと共に、なんともいえない無気味な死の脅かしが卒然として葉子を襲った。部屋 の中にはそこらじゅうに死の影が満ち満ちていた。目の前の氷水を入れたコップ一つも次の瞬間にはひとりでに倒れてこわれてしまいそうに見えた。物の影になって薄暗い部分は見る見る部屋じゅうに広がって、すべてを冷たく暗く包み終わるかとも疑われた。死の影は最も濃く貞世の目と口のまわりに集まっていた。そこには死が蛆 のようににょろにょろとうごめいているのが見えた。それよりも……それよりもその影はそろそろと葉子を目がけて四方の壁から集まり近づこうとひしめいているのだ。葉子はほとんどその死の姿を見るように思った。頭の中がシー......
単語の意味
蛆(うじ)
蛆・・・ハエやハチなどの幼虫。円筒形で足がなく、白っぽい虫。蛆虫(うじむし)。
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(生きていたときのような華やかさは無く、)彼女は凍りついた無感動とでもいったようなものを身に纏っているだけだった。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
眼を薄く開けた姑は、明らかに死んでいた。
雫井 脩介「火の粉 (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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