雲は前と同じように速いスピードで空を横切っていった。それは南に流され、東京湾の上に出て、更に広大な太平洋に出ていくはずだ。そのあと雲がどのような運命をたどるのかはわからない。死後の魂のあり方を誰も知らないのと同じように。

数え切れないほどの雲があとからあとから、かさにかかった軍団のように押し寄せてくる。

様々なかたちと大きさの雲が空を素速く吹き流されていく。雲は白く緊密で、輪郭がくっきりとして、雪解けの川を海に向けて運ばれていく堅い氷塊のようにも見える。いずこからともなく現れて、いずこへともなく消えていくそんな夜の雲を見ていると、自分が世界の果てに近い場所に運ばれてきたような感覚があった。

冷たい風が雲の群れを東京湾の方向に吹き流していった。雲はパテでこしらえられたもののように、それぞれ不定型に堅くこわばっていた。

雲は北から南に向けて緩い速度で移動していた。上空を吹いている風は強いものではないらしい。あるいは雲はよほど高いところにあるのかもしれない。いずれにせよ彼らは決して先を急いではいない。

座敷の中は暖かくいきれて

月の全体の形も頭蓋骨に似ている。白銀の頭蓋骨だ。

空気は重く、蒸発した雨が毛穴の奥にまでまとわりつくようで、皮膚から垂れ落ちる水分が自分の汗なのか雨粒なのか、もはや判別がつかない。

スカーンと晴れた青空

月が西に傾いたので、白い光りの一帯は半切（はんきれ）ほどに細くなった。