じっとしていても汗が体を伝う

（蒸し暑い夜）風がやんで、空一面をおおった薄い雲が、月の輪郭をかすませ、ようよう近寄って来る夏の温（あたた）かさが、両岸の土からも、川床（かわどこ）の土からも、もやになって立ちのぼるかと思われる夜（よ）

大きなかさばった荷物を背負って歩く。《…略…》汗びっしょりで、何とも気持ちが悪い。からりと晴れた空。まるで、コオボウ大師を背中にしょってるような暑さなり。

灼熱した鐘の内部のような大気のなか

部屋自体が、それこそうどんの茹（ゆで）釜ではないかと思われるほど暑い地下室の従業員食堂

手がかじかむので、指を動かす。

風は険しさを感じるほど冷たい

血管の中には血の代わりに文火（とろび）でも流れているのではないかと思うくらい寒気に対して平気だった

コンクリートの床から冷気が迫り上がってくる

（外の）冷たい空気は、室内にのみ閉じこもっていた葉子の肺を押し広げて、頬（ほお）には血液がちくちくと軽く針をさすように皮膚に近く突き進んで来るのが感ぜられた。